お気に入りの赤い靴をはいて、リサちゃんはお母さんと一緒に手芸屋さんに入った。毛糸売り場のコーナーに行くと、お母さんは真っ先にお買い得品のワゴンを見に行く。
「リサ、これはどう?」
振り向いたお母さんの手には、10玉入りの黄色の毛糸のパック。
「やだ、リサはあかがいい。」
ワゴンの中をくまなく探すも、赤い糸はない。
「ピンクならいいんじゃない?」
「だめ。」
すぐそばにある棚に駆け寄ったリサちゃんは、真っ赤な毛糸を一玉取り出す。
「これがいいよ。」
リサちゃんの所にゆっくりと歩いてきたお母さんは、値札をまじまじと見つめる。
「10玉で3850円か。」
そう言うと、お母さんは毛糸を一つ手に取って丹念に触り始めた。無言のまま、赤い糸を見つめるお母さん。
「ねえねえおかあさん。リサ、やっぱりきいろもすきだよ。」
リサちゃんが持っていた赤い糸を棚にしまおうとすると、
「やっぱり、これにしよう。リサ、かご取ってきて。」
リサちゃんは急いでかごを持ってきてお母さんに渡すと、二人で赤い毛糸を一つずつ数えながらかごに入れていく。
「10。」
最後の1個をかごに入れると、リサちゃんはお母さんに抱きついた。
「おかあさん、ありがとう。このセーター、たいせつにきるから。」
「まだ出来てもないのに。」
お母さんはリサちゃんの頭をなでながら、クスッと笑った。
「けいとがあまったら、くーちゃんのセーターもあめる?」
「くーちゃんは寒くないから、セーターはいらないんじゃない?」
「ぬいぐるみだってさむいんだよ。」
「毛糸が余ったらね。」
かごを持ってレジに向かうお母さんの後ろを、スキップしながらリサちゃんはついて行った。
歩道の向こうから自転車がやって来る。
「危ない」
って言って、私の手を思いっきり引き寄せたあなた。私はあなたの手を握りながら、たくましい背中を見てにやけてしまった。
「よいしょ。」
と持ち直したあなたの右手のスーパーのレジ袋には、お肉とニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ。そしてタタミイワシ。
「大丈夫?」
ってあなたの顔を見上げると、
「早く帰ってビール飲みたい。」
ショルダーバッグからタオルを取り出して、そっとあなたの汗ばんだおでこをふく。2時間ぐらい歩いて、足には程よい疲労感。行き道はおしゃべりだったあなたも、帰り道は口数が減っていた。
「見て、すごい雲。」
私が空を指差すとあなたも空を見上げ、
「急いで帰った方がいいかもね。」
「どうして?」
「雨降るかも。入道雲出てるから」
「ふーん。やば、洗濯物」
少し歩調を早めた二人。
でもね、正直言うと。雲ってどれも同じに見えて。いまだに私は入道雲を見分けることができない。
私にはモフモフな娘が2人います。2人というか2匹、あるいは2羽って言うべきかな。
耳が長くてぴょこぴょこ飛び跳ねる娘たちは、フワフワな毛で覆われていて。寒かろうが暑かろうが、毎日せっせと毛づくろいにいそしんでいます。
話しが飛ぶけれど、40歳の私にとってクーラーって贅沢品でして。寝る時に我慢できないってくらいの暑さになったらつけるもの。日中はどんなに暑くても窓を開け扇風機でしのぐ。そんなのが当たり前の時代を生きてきました。
令和になった今でも、特に今年は電気代が高騰してるし、開いた窓から風が入ってくるなら、極力クーラーはつけたくないんだけれど。
一昨年の夏ぐらいからかな。朝でもクーラーをつけないと我慢できないほど暑くなってる気がします。それでも、自分だけならマックスにした扇風機の風で耐えしのぐんですけど。
モフモフな娘たちのためには、躊躇なくクーラーのスイッチを入れる母。窓から入ってくる風よりも何十倍も涼しいクーラーの風。この風に一番癒やされてるのは、モフモフなウサギたちよりも、40歳のオバサンだったりする。
今は亡き祖父母や叔母、叔父
兄の離婚以来会えない甥っ子たち
不本意な別れ方をした大好きだった人
夢の中でしか会えないあなた達。
夢の中でしか会えないからだろうか。あなた達に会った夢はすごく鮮明に覚えてて。本当に会ったのかなって錯覚を起こしてしまいそうになる。
夢を見ているとき。私の体はここにいるのに、私の意識はどこか違う所にいる。体を横たえて目をつむるだけでここではないどこかに行けて、大好きな人に会えるなら。夢の方が現実よりも幸せなのかな…
でもやっぱり。
どんなにムカつくことばかりでも。どんなに悲しいことがあっても。私はここ(現実)が好き。
目を開いて見るこの瞬間の世界が、1番輝いて見えるから。
テレビの隣の棚に飾っている写真立て。
ピース姿の君と、池を覗いている後ろ姿の君。
最後に会った君たちの写真。
丘の上でシャボン玉を作ったり、アスレチックで遊んだり、池の鯉を見たり。公園を楽しそうに走り回ってる2人の姿、今でも瞼の裏に焼き付いているよ。
もう2年が経ったけど。おばちゃんの中ではね、二人は写真のまま。甘えん坊のお兄ちゃんと、わんぱくな弟くん。
色んな事情で会えない世界で一番大好きな2人。
今は写真でしか見ることができないけど。いつか本当に会った時には、最後に会った君たちのまま、世界一かわいい声で「まさちゃん」て呼んでくれるかな。
もう抱っこはできないかもしれないけれど。その時は、ぎゅっと抱きしめさせてくれますように。