クラリネット吹きだったあの頃。
プレッシャーから逃げたくて、
いつも小さな家庭科準備室に篭って練習していた。
ある日、何を思ったのか、ふとベランダに出て、
だだっ広いグラウンドに向かって練習をした。
入道雲の見下ろす夏空の下、
ちっぽけな私が
懸命に旋律を張り上げていた。
誰か、誰か私の音を聴いてくれ。
殻に籠って自己完結してた私の叫びは、
その時だけ誰かに向けて奏でる、演奏になっていた。
結局私は大した功績も残さず、
クラリネットを続けることはなかったけれど。
あの弱々しい、不安げな、けれど必死な音が
誰かの心に留まっていたならと
今でも想像したりする。
『上手くいかなくたっていい。』
完全完璧って、定義すると完璧じゃなくなるよね
愛する人に愛される自分でありたいから、
些細な癖を直してみたり、
逆に新しい習慣がついたり、
それまでだったら行かなかったところに行くし、
今まで好きだったものも我慢するかもしれない。
愛する人には健やかであって欲しくて、
喪失を恐れて涙を流す。
愛は互いに与え受けたいものだから、
自分と他者との領域を溶かしあって、
新しい領域まで境界を広げるものだと思う。
愛があると、
自分ひとりではできないこともできるようになる。
自分の知らなかったことを、知ることができる。
『愛があれば何でもできる?』
⚠仄暗い表現
惰眠から覚めて、斜陽を浴びる。
残ったカップ麺を消費して、
積まれた本の山を少し倒す。
クリアを放棄したソフトを拾って、
たまには真面目に掃除をしよう。
ありものでどうにかできるかな。
浴槽に湯をためて、
カッターを使おうか。
温い湯に腕も身体も浸しながら、
酒でも飲もう。
何も考えないようにするのは得意だ。
いつもやっている。
そのまま狭くて暗いこの世界で、
すべてを終わらせるのだ。
『明日世界が終わるなら』
歪んで、独りで生きることを正解にしようとした自分は、君と出逢って変わった。
君という存在は緩やかに染み出す水に近かった。
あの日から、自分の世界は広がり続けている。
香りが、記憶と強く結びつくこと。
自分は寂しがり屋で、肌の温もりが好きなこと。
存外、人は不完全でも愛せること。
これからも、この水面は広がり続けるのだろう。
願わくば、君との日々が、幸せなままもう少しだけ続きますように。
『君と出逢って』