ささほ(小説の冒頭しか書けない病

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9/17/2024, 10:23:36 AM

花畑

高山植物が一斉に咲く場所を花畑と呼ぶなら、きっとこれは花畑なのだろう。原っぱに雑然と、時刻も季節もめちゃくちゃに咲き乱れる花々は、レンゲ、クローバー、カタバミ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、ツユクサ、タンポポ、ヨメナ、カキドオシ、コヒルガオ、マツヨイグサ、ニワゼキショウ、ハルジオンかヒメジョオン、イヌタデ、そして、彼岸花。

いちばん目立っているのは彼岸花だ。あの世とこの世の境にはいろんな季節の花がごちゃごちゃ咲くお花畑があるんだよ、と亡くなった祖母が話してくれたっけ。だとしたら私は死んだのか。どちらに歩いてゆくべきは不思議とわかったので私はひとり歩き続けた。人が皆いずれはひとりで歩くことになる死出の旅路を。





※※※


以下蛇足。

あの世とこの世の境にいろんな季節の花が適当に咲く花畑があるという話は、松谷みよ子の『あの世からのことづて』で読みました。きれいに植えられた花壇のような花畑ではなくそのへんの野花がやたらと咲いているのだそう。

いろんな季節の花ということで水仙を入れようかすごく迷いましたが、水仙が浮くような気がしてやめました。冬の野花って他に何があったでしょうか。春の花なら他にヒメオドリコソウやハハコグサも入れたかったんですが春の花ばかりになるので没。ハルジオンは春の花でヒメジョオンは夏の花ですが、混生してたら私には見分けがつかないので名を並べました。ニワゼキショウやクローバーは帰化種で日本原産ではなく、境の花畑にあるかわかりませんが、親しみ深い花なので入れました。

この世とあの世の境のお話では、ローズマリ・サトクリフの『子犬のピピン』という絵本が好きです。手塚治虫には「0次元の丘」というのがありました。山岸凉子にはそれこそ何作も恐ろしいのがありますがタイトルを書くとネタバレになるので書きません。

9/16/2024, 12:30:58 PM

空が泣く

空は泣かない。当たり前だ。空が水を落とすのは単なる気象現象であって、空は泣かない。たとえ空がどんなに水を落としても。だとしても、だとしたら、いまわれらの頭上で起きているこの現象はなんなのだろう。台風の目に似たまなこのような雲はその中央に巨大な水滴を貯めており、今にもこぼれそうなのが地上で見て取れるが、同時にその涙をこぼすまいとする大いなる存在の意志も見て取れるのである。そう、人類はあの不可解な存在の意志や感情も読み取れる存在になった。それを誇る相手はあの今にも涙をこぼさんとしている存在なのが何とも言えない。われら人類はこのために進化したのだというものもいるが。あの存在は理解者がほしくてわれらを進化させたのではないか?

9/15/2024, 10:10:24 PM

君からのLINE

君からのLINEだ
ここでも読めるなんて
以前はうれしかった
でもいまは

迷惑だとか
鬱陶しいとか
君を嫌いになったとか
そういうんじゃなくてさ

死んでるんだよ
死んでる人間と
LINEやってはいけない

もうやめてくれ
ぼくが死んでから
もう半年経つんだよ

9/14/2024, 11:39:26 AM

命が燃え尽きるまで

「命が燃え尽きるまで」というタイトルだけがトップからおりてきた。おれの上司怒る怒る。

「そもそも命ってなに? 燃え尽きるまでってなに? 溶鉱炉に浸かって親指立てたやつには命なんかなかったよね! つまんないテーマのVRMMOは作るべきじゃないわ!」

叫ぶ叫ぶすげーうるせー。これがおれの上司かと思うと燃え尽きたいほどに嘆かわしい。でも言ってることには理がある。

「まず命を定義するのよ。ウイルスは生命でないと仮定して、微生物がこの世界に生きている限り主人公のライフは尽きない前提でやってみたい。そして結末はふたつ。宇宙の生命体をすべて根絶するか、宇宙の果まで命でいっぱいにするか。それ以外は敗北というゲーム、それなら作ってみたいわ。どうかしら」

簡単に言いやがるなあ、それを作るのはおれっちだぜ。おれの命が燃え尽きそうだ。

9/14/2024, 12:52:37 AM

夜明け前

夕暮れどきは、たそがれ、すなわち「誰でしょうあれは?」と言いたくなる時分であるという。君はあの時刻をトワイライトと呼んで、薄皮一枚向こう側の薄明界に強い興味を抱いた。

君の研究は本当に面白かったよ、薄明界に住まうものを妖怪だと君が断言したときは腹を抱えて笑ったっけ。ずっとあんなふうに笑っていたかったなあ。

しかし君は気づいてしまった。夕暮れの薄明界など子供の悪戯のようなものに過ぎない。真の薄明界への入口は夜明け前にあるのだ。かわたれ、すなわち「あれは誰でしょう?」と訊ねたくなる夜明けがやってくるその直前の闇に。

知ってしまった君を生かしてはおけない。

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