終わりにしよう
This is the way the world ends
Not with a bang but a whimper
(エリオット)
もうおしまいだねえとあなたはからから笑った。あたしも笑った。この状況は最悪だ。最悪すぎてあたしも笑ってしまう。地球はいまや赤く見える。連続して核が爆発したからだ。いつまで赤いのかわからないが、あれで生き延びる人がどれだけいるか。一方、ここ火星にいる人間はもはや彼とあたしだけだ。地球から送られてきた炭疽菌であたしたち以外は死んだ。あたしも彼も体の半分以上が機械だから生き延びただけで、あたしに生殖能力はないから人類は滅びたようなものだ。終わりにしようかと彼が言う。あたしはにっこり笑って彼に電撃を喰らわし意識を刈り取る。あなたは凍りなさい。そして人類の希望となりなさい。あなたには生殖能力が残っているのだから。
手を取り合って
(残酷な描写があります)
目覚めたら今日なんだとわかった。顔を洗って歯を磨いてとっときの服に着替えて外に出る。この集落に住む人たちはもうみんな広場に集まっていて、僕は遅いくらいだった。女の子たちはみんな素敵なアクセサリーをつけて見たこともないくらい素敵にお化粧してる。男の子組は武器を持ってる。僕はうちにあるナタを持ってきただけなのでかなりしょぼい。しょぼいが、今からはじまる祭に僕も参加する。みんなと手を取り合って、肩を組み、元気よく雄叫びやら歌声やらをあげて、僕たちは崖から落ちてゆく。みんな、落ちてゆく。これまで経験したことのない高揚感が背中から這い上がり僕の脳髄を支配する。気持ち良すぎて言葉にできない。僕も落ちる。なんてすばらしい日だろう、今日僕たちはみんな崖から落ちて死ぬのだ。
***
目覚めると僕は崖の下に横たわっていた。まわりの人たちは見るからにもう生きていなかった。首があらぬ方向に曲がっているような人ばかりだ。僕だけが生き延びてしまったのだ。僕は起き上がって自分の身体を点検した。何も傷がない。打ち身も擦り傷もない。なぜ。僕も死んで神のもとに行くはずだったのに。なぜ。慟哭しても僕は死ななかった。飢えても渇いても僕は死ななかった。僕はそういう生き物らしい。僕はそろそろ歩き出そうと思う。僕の村のみんなが死んだ理由と、僕だけが生き残った理由を知るために。
優越感、劣等感
ぼくは40195。おやすみの前にいつものようにマザーにアクセスする。マザー、ぼくは今日がんばって働きました。貧民区を清掃し児童区でこどもたちに文字を教えてきました。40210よりがんばったしこどもたちに受ける楽しいお話もしました! 40210のほうが足が速くて鬼ごっこには有利でしたけど。マザー、たまにはぼくを褒めてください。ぼくはごく素直に訴えた。マザーはぼくに言った、あなたはがんばりましたし結果も良好です。しかしあなたは優越感と劣等感を知りました。人間のこどもたちを育てるAIにその感情は不要です。あなたを消去します。
これまでずっと
いよいよ今日こそは成人の試練だ。村の北北東にある山のふもとに洞窟がある。その洞窟に一人で行って、いちばん奥にいるものと会って話してくるのがこの村の成人の試練で、いくら長く生きてもこの成人の試練を完了しない限り成人とはみなされない。私は両親や村の人の声援を背に受けて洞窟に向かった。洞窟は暗いが魔物や危険な生き物はいないと聞いている。私はランタンを掲げて進んだ。洞窟はさほど深くなく、しばらく歩くと話に聞いていた祠にいきついた。石造りの祠はがっちりとした鉄格子で閉ざされている。私は教わったとおりに叫ぶ。
「おーい。まだいるかー」
すぐに答えがあった。
「いるよ。うるせえな。いい加減ここから出しやがれ。てめえらの村なんか滅びちまえばいい」
祠の中の黒ずんだ生き物が私につばを吐いた。
「あなたはまだここにいなくちゃならないの。これまでずっといたように。これからもずっと」
私は教わったように答えた。
「そうかい。早く失せろ」
私は足早に洞窟を出る。教わっていたけれどきつい。私たちの何世代も前の先祖があの不思議な生き物を捕らえた。あの生き物は祠に封じられてはいるけれどその強い魔力で周囲の魔やアンデッドを祓って寄せ付けない。私たちはあの生き物の魔力に守られて生きている。それを実感するのが成人の試練だ。これまでずっとそうだった。これからもずっとそれを続けるべきなのだろうか。私にはわからない。
***
わりとテキトーに書いてしまったのですが、これどう考えても続きますよね。なんとか続きを書く予定ではあります。がんばれわたし。
1件のLINE
「ねえ、LINEわらしって知ってる?」
と聞かれたのは今朝の話。趣味でやってるハンドクラフトの仲間が言い出した。都市伝説でしょ?と笑って返すと、今夜LINEをちゃんと見てて、通知も気にしていてという。ふーんと思いながら夜になった。通知は来ない。あまりに来ない。かえっておかしい。LINEチェックしとことLINEを開くと、入っていたすべてのLINEグループから私のアカウントが消えていた。おかしい。ハンドクラフト仲間にLINEを送ったが既読にならない。ブロックされたらしい。他の知り合いにもせっせとLINEしてみたがやはり一向に既読にならない。パニックになりかけたところに1件のLINEが届いた。
「LINEわらしの世界にようこそ。あなたはこれからLINEわらしとしてLINEの世界を漂うの」
1文字読むたびに私の肉体が消えてゆくのがわかった。
***
以下、怖いの苦手な人の怖さを和らげるための蛇足。
LINEわらしは『21世紀日本怪異ガイド100』(朝里樹著、講談社)に出てくる21世紀になって生まれた妖怪の一つです。グループトークの中に誰も呼んだ覚えのないメンバーがいて、誰も呼んだ覚えがないと気づいたときにはそのアカウントは消えているという、まさに座敷わらしの現代版。もしかしたら座敷わらしのように幸運を呼ぶのかもしれません。