手を取り合って
(残酷な描写があります)
目覚めたら今日なんだとわかった。顔を洗って歯を磨いてとっときの服に着替えて外に出る。この集落に住む人たちはもうみんな広場に集まっていて、僕は遅いくらいだった。女の子たちはみんな素敵なアクセサリーをつけて見たこともないくらい素敵にお化粧してる。男の子組は武器を持ってる。僕はうちにあるナタを持ってきただけなのでかなりしょぼい。しょぼいが、今からはじまる祭に僕も参加する。みんなと手を取り合って、肩を組み、元気よく雄叫びやら歌声やらをあげて、僕たちは崖から落ちてゆく。みんな、落ちてゆく。これまで経験したことのない高揚感が背中から這い上がり僕の脳髄を支配する。気持ち良すぎて言葉にできない。僕も落ちる。なんてすばらしい日だろう、今日僕たちはみんな崖から落ちて死ぬのだ。
***
目覚めると僕は崖の下に横たわっていた。まわりの人たちは見るからにもう生きていなかった。首があらぬ方向に曲がっているような人ばかりだ。僕だけが生き延びてしまったのだ。僕は起き上がって自分の身体を点検した。何も傷がない。打ち身も擦り傷もない。なぜ。僕も死んで神のもとに行くはずだったのに。なぜ。慟哭しても僕は死ななかった。飢えても渇いても僕は死ななかった。僕はそういう生き物らしい。僕はそろそろ歩き出そうと思う。僕の村のみんなが死んだ理由と、僕だけが生き残った理由を知るために。
7/14/2024, 10:44:28 AM