1件のLINE
「ねえ、LINEわらしって知ってる?」
と聞かれたのは今朝の話。趣味でやってるハンドクラフトの仲間が言い出した。都市伝説でしょ?と笑って返すと、今夜LINEをちゃんと見てて、通知も気にしていてという。ふーんと思いながら夜になった。通知は来ない。あまりに来ない。かえっておかしい。LINEチェックしとことLINEを開くと、入っていたすべてのLINEグループから私のアカウントが消えていた。おかしい。ハンドクラフト仲間にLINEを送ったが既読にならない。ブロックされたらしい。他の知り合いにもせっせとLINEしてみたがやはり一向に既読にならない。パニックになりかけたところに1件のLINEが届いた。
「LINEわらしの世界にようこそ。あなたはこれからLINEわらしとしてLINEの世界を漂うの」
1文字読むたびに私の肉体が消えてゆくのがわかった。
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以下、怖いの苦手な人の怖さを和らげるための蛇足。
LINEわらしは『21世紀日本怪異ガイド100』(朝里樹著、講談社)に出てくる21世紀になって生まれた妖怪の一つです。グループトークの中に誰も呼んだ覚えのないメンバーがいて、誰も呼んだ覚えがないと気づいたときにはそのアカウントは消えているという、まさに座敷わらしの現代版。もしかしたら座敷わらしのように幸運を呼ぶのかもしれません。
目が覚めると
ベッドから起き上がるとそこは見知らぬ部屋だった。殺風景なコンクリートの壁と床、窓もなく、ベッドの他にはシンプルなテーブルとタンスがあるだけだ。もちろん僕の部屋ではない。僕の妻も息子もいない。ここはどこだ。僕は混乱したままベッドを出た。テーブルの真ん中に赤いボタンがあり、「緊急時に押すこと!」と書いてあるから押してみた。すると天井から音が降ってきた。
「どのような問題が起きましたか?」
「ここはどこだ!」
「あなたの住まいです」
「僕の妻は? 息子はどこだ!」
「…エラーを発見しました、そのままお待ち下さい」
突然後頭部に衝撃を感じて僕は昏倒した。
目が覚めると、そこは僕の家で、妻が一歳になる息子を抱いて心配そうにこちらを覗き込んだ。夢だったんだな。よかった。あんなのは夢だ。
本当に夢? 妻の名前も息子の名前も思い出せないのはなぜだ?
***
ショートショート版をnoteに公開しました。
『目が覚めると』
https://note.com/pakiene_s/n/nc3aaef6ce20b
私の当たり前
ごめん今夜は冷静になれない。私の当たり前など語りたくない。不特定多数の当たり前を語りたくない、聞きたくない、私はどうしてもこの場合の当たり前という言葉が好きになれない、それが私の当たり前だということすらつらい。あなたの当たり前は存在していい。私は立ち上がり私のすべての仮面を外し銀色の円筒を掲げて邪神ハスターに祈りを捧げる、「イア!イア!ハスタア!ハスタア!クフアヤク!ブルグトム!」…この行動は私にとっての当たり前ではない。ありったけの勇気と憧れをこめて祈る。当たり前など砕けて散れ。
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以下蛇足。
私の当たり前とあなたの当たり前は違う。(当たり前
当たり前の日常が大切。(当たり前
当たり前と思ってることが間違ってるかも。(当たり前
大切じゃない壊すべき当たり前もある。(当たり前
私の当たり前とあなたの当たり前に共通項はきっとある。それはそれとして、インフラや暮らしやすさや平和のような当たり前はなくしたくないし、なくすべきではない。でも世の中には差別や理不尽な迫害が当たり前のように存在していてそういう当たり前はなくしたほうがいい。あと自然や社会に関する当たり前は常に疑っておいたほうがいい。当たり前は変化する。かつてクトゥルフ神話なんて超マイナーだった。いまはたくさんの人がクトゥルフ神話を知ってる!なんてすばらしい当たり前!
すごく素直に真面目に考えた、これらが私の当たり前です。イア!イア!ハスタア!
お目汚し失礼いたしました。
街の明かり
農協があって、おでんも売る酒屋が一軒、洋服も売る雑貨屋が一軒、それから大都会という名のバーだかカラオケ屋だかがあって。たった四軒の店が並ぶその通りこそが私が生まれ育った街のメインストリートだった。そのメインストリートまで行くのにすれ違えないような道を車で30分走る。30分なら近い。あの四軒しかなかった街の明かりが私にとっては街の明かり原体験だ。いまでは、もう、一軒も残っていない。誰も店を継がなかった。農協だけは最近まであったが併合されて消えた。人はまだ住んでいて夜は明かりが灯るがあれは街の明かりではないと思う。
七夕
七夕や眼鏡を捨てて歩く姫
ウォッカは凍らして飲む星の夜
笹飾りベテルギウスよはよ爆ぜろ
(書けないので適当に俳句書いて保全