友だちの思い出
小学生のとき仲がよかったその友だちは、確かに友だちだったし毎日遊んでいたのだけど、いま思い返してもひどいヤツだった。平気で人の金を盗むし万引きするし学校はサボるし人をパシリにするし、自分でもなんで一緒にいたのかわからない。という話を小学校の同窓会で話したところ「そうそうアイツはそういうヤツだった」との賛同を多数得られた。なのに、肝心の「アイツ」の名前を誰も思い出せないしここにアイツは来てない。人の宿題を勝手に写したりカンニングしたり素行の悪かったアイツ、行動は印象的だったはずなのに顔も名前も思い出せないアイツ、僕たちはどうしてもアイツの家や家族を思い出せなかった。アイツは本当に存在したんだろうか。僕たちが僕たちの罪を背負わせるために作り出した存在だったんじゃないのか。僕は首を横に振る。アイツはひどいヤツだった。そういうことにしておきたい。
星空
「マスター、ここ清酒あるのー?」
と、店に入るなり叫んでみた。
「おまえな、ここカクテルバーだぞ」
「マスター自分は清酒飲んでた!知ってる!」
「あるにはある。小夜衣と開運だ。てかおまえいつもチューハイ飲んでたろ。急に日本酒なんてどうした」
「小夜衣ちょうだい」
マスターにうまく説明できる気がしないから徳利で出てきた小夜衣をおちょこについで飲みながら窓の向こうを見る。七夕は雨が降りやすいけど今日は晴れててわし座が見える。
「約束したんだ。今日晴れたら酒を飲もうってね。でもそいつ濁った酒しか知らないんだって。だから透き通った日本の酒を飲ませたくてー」
おれ、あんまり酒強くないけど清酒はうまいと思う。小夜衣は甘くて優しくて大好きだ。
「一応聞いとくがそいつは人間か?」
とマスターが聞くけどそんなこと知らんと言いかけたら店のドアがちりんと鳴って、
「今日は挨拶にきただけ。明日また来るね」
爽やかに閉めたドアのまわりに舞い散る光の金粉。
まるで室内に唐突に現れた星空。
「おい。もう一度きくけどあれは人間か?」
「うーん。たぶん…彦星だと思う…」
神様だけが知っている
ビーチ・ボーイズは脳天気に聴こえるから嫌いだと思いながらビートルズのリボルバー聴いてた夏。ラジオから聴こえたビーチ・ボーイズの"God only knows"の音がわたしの耳を焼いた。ビーチ・ボーイズのどうしようもない暗黒も、わたし自身のこの暗黒も、まわりの人は誰一人わかってくれなかった。でも今はそうじゃない。わかりやすくヤンデレという言葉もできたしいい時代になった。定義されて単純化した気もするけど。ビーチ・ボーイズなんて古い話してるおまえはいくつかって? わたしに年齢なんかないの! 女の年齢は神様だって知るべきではないのよ!
この道の先に
コンクリート舗装の曲がりくねった坂を登り、神社の門前通りに出た。昔ながらの土産屋と駄菓子屋の間にとても細い路地がある。この道の先にあるのだと訳知り顔の友人に言われたのだけど本当だろうか。バランス栄養食とスポーツ飲料をたくさん詰めたリュックを背負い直して一歩踏み出す。水に落とした水彩画のように景色がにじみ、ぼやけ、歪み始める。この道の先に何があるのか知らない。知らないけど、ずっと切望してきたものがすでにここにある。
日差し
「やあ、あんたに日差しはダメだったね」と言ってくれる人がいるのが不思議でたまらない。そういう親しい台詞を言う人がいなかったせいでどう答えていいかわからない。夕暮れ時の日差しくらいは大丈夫と言おうとしたが夏至すこし過ぎた夏の日もすでに暮れて暗い。日差しは鬱陶しいものでしかないし足元に絡みつくこいつらはなんだ、犬は苦手なんだと言っておいたのに。でもなんだろう、こんなに懐いて言うことを聞いてくれる生き物を私は知らない。夏至の日差しは、この時刻にはさすがに暗くなり、日差しの問題ではないのは私にもわかる。明日からは話し合おう。でも今夜はおやすみ。
***
昨日はだいぶ酔って書いたので意味がわからない…