「あの泣き虫さんがずいぶん遠く…にいってしまったね。」過去を懐かしみつつ寂しそうに老婆は呟いた。
「村で1番泣き虫で、けど誰よりも優しかったあんたがね…… 今じゃ街で誰よりも怖い役人だって言うじゃないか。」
「…無駄話をする時間はない、失礼する。」
そう言って、老婆を遮り私は村の通りを進んだ。
老婆は私の後ろ姿をじっと見つめながら、ぼやいた。
「いつかまたその心が優しさで満ちる日が来るようにお天道様に祈っとくよ。それが、あんたのためさ。」
余計な、お世話だ…と思った。振り返らずに私は歩みを進めた。
優しさだけでは飯は食えない、身をもって知った事だ。優しいだけでは、自分も誰も救えない。
それなのに、どうしてか……あれから、あの老婆の言葉が頭に焼き付いて離れない。
私のために祈ってくれる人が、この世界にまだいたのかと、その事実が思いの外嬉しかったのだ。
「私、嘘つきだよ?」
「知ってるよ。」
そう言って、手を握り返した君はどこまでも温かった。その優しさに、溶けてしまうよ。
今は亡きばあちゃんの和ダンスの中から手紙を見つけた。
不思議な手紙だった。
「未来の私の孫へ
この手紙を貴方が読める頃には、私はもうこの世にいないでしょう。
これだけは言わせてほしい。
あんたはね、無数の愛に包まれて生きてるんだ。誇っていい。沢山のご先祖様があんたの命を繋いだんだ。
あんたを心から愛しているよ。
追伸。ばあちゃんの和ダンスの中には、ばあちゃんのへそくりはありません。」
最後の追伸で、思わずくすっと笑ってしまった。ちぇ、ないのかよ。
ばあちゃんに心の内を見透かされた気分だ。
懐かしい、笑い声が後ろから聞こえた気がした。
通話越しに言った。「バイバイ。」
またね、とは言えなかった。
だってこれが最後だから。
彼女は小学校以来の友達で親友だと思っていた事もあった。
けど、明日からは他人、なんだよな…。
些細な事がきっかけで喧嘩になった。
私はその時に水面下でずっと彼女の自己中さに我慢していた自分を改めて知った。
自分の醜い感情が表に出た時、何より自分に嫌悪感を感じた。
消してしまいたい…。
全部、この感情も、彼女の存在も自分の中から消してしまいたい…。
そんな衝動に駆られた。いわゆる、リセット癖かもしれない。
その後すぐに行動に移した。
彼女の連絡先をブロック。
幸い、通っている大学は違うから、疎遠になればそれまでのことだと思っていた。
けれど、彼女は思わぬ行動に出た。
付き合いが長いからこそ、知っている家の電話にかけてきたのだ。この時ばかりは、実家暮らしを恨んだ。
私が「バイバイ。」
と言った後、彼女は少し間をおいて返事をした。
「…縁があったら、またね。…だって、未来はわかんないじゃない?」
その問いに返事をしないまま、電話を切った。私は自分が泣いていることに驚いた。
自分から縁を切ったのに。今更、なんだろう。涙が溢れ出てくる。
ごめんなさい、は今の未熟な私には言えない。けれど、彼女の言うように、もし未来、縁があればまた2人で心から笑い合えるんだろうか。
わからない。答えは誰にもわからない。
窓の外は、幾億と言う星々が毎日、生まれては死んでいく。
胸が押しつぶされそうな私を美しい綺羅星は
嘲笑うかの如く、地上を照らした。
旅の途中、神社からみた空に心を奪われた。黄昏時?いや逢魔時かもしれない。
胸の内がざわざわするけど、あまりの美しさにうっとりもしてしまう。
空のキャンバスはいつだって変幻自在だ。