「あの泣き虫さんがずいぶん遠く…にいってしまったね。」過去を懐かしみつつ寂しそうに老婆は呟いた。
「村で1番泣き虫で、けど誰よりも優しかったあんたがね…… 今じゃ街で誰よりも怖い役人だって言うじゃないか。」
「…無駄話をする時間はない、失礼する。」
そう言って、老婆を遮り私は村の通りを進んだ。
老婆は私の後ろ姿をじっと見つめながら、ぼやいた。
「いつかまたその心が優しさで満ちる日が来るようにお天道様に祈っとくよ。それが、あんたのためさ。」
余計な、お世話だ…と思った。振り返らずに私は歩みを進めた。
優しさだけでは飯は食えない、身をもって知った事だ。優しいだけでは、自分も誰も救えない。
それなのに、どうしてか……あれから、あの老婆の言葉が頭に焼き付いて離れない。
私のために祈ってくれる人が、この世界にまだいたのかと、その事実が思いの外嬉しかったのだ。
2/8/2025, 10:27:47 AM