通話越しに言った。「バイバイ。」
またね、とは言えなかった。
だってこれが最後だから。
彼女は小学校以来の友達で親友だと思っていた事もあった。
けど、明日からは他人、なんだよな…。
些細な事がきっかけで喧嘩になった。
私はその時に水面下でずっと彼女の自己中さに我慢していた自分を改めて知った。
自分の醜い感情が表に出た時、何より自分に嫌悪感を感じた。
消してしまいたい…。
全部、この感情も、彼女の存在も自分の中から消してしまいたい…。
そんな衝動に駆られた。いわゆる、リセット癖かもしれない。
その後すぐに行動に移した。
彼女の連絡先をブロック。
幸い、通っている大学は違うから、疎遠になればそれまでのことだと思っていた。
けれど、彼女は思わぬ行動に出た。
付き合いが長いからこそ、知っている家の電話にかけてきたのだ。この時ばかりは、実家暮らしを恨んだ。
私が「バイバイ。」
と言った後、彼女は少し間をおいて返事をした。
「…縁があったら、またね。…だって、未来はわかんないじゃない?」
その問いに返事をしないまま、電話を切った。私は自分が泣いていることに驚いた。
自分から縁を切ったのに。今更、なんだろう。涙が溢れ出てくる。
ごめんなさい、は今の未熟な私には言えない。けれど、彼女の言うように、もし未来、縁があればまた2人で心から笑い合えるんだろうか。
わからない。答えは誰にもわからない。
窓の外は、幾億と言う星々が毎日、生まれては死んでいく。
胸が押しつぶされそうな私を美しい綺羅星は
嘲笑うかの如く、地上を照らした。
旅の途中、神社からみた空に心を奪われた。黄昏時?いや逢魔時かもしれない。
胸の内がざわざわするけど、あまりの美しさにうっとりもしてしまう。
空のキャンバスはいつだって変幻自在だ。
君は僕の本性をまだ知らない。
安っぽい笑顔で簡単に騙される君が逆に心配になる。
本当はね、僕は君だけに優しいわけじゃないんだ。僕の言葉は全てが天邪鬼。
だけど君が望むなら、今宵も語り合おう。
内容のない晩餐会を開こう。
どうか、君がいつか僕といた時間を「人生損した」と気がつきますように。
ずっと日陰だけを歩くような人生だった。
今更日向に出ようとは思わない。思えない。
ただ僕は街の木の隙間からわずかに差し込む光だけは昔から嫌いじゃなかった。
薄暗い街の隙間に息苦しそうに生えている桂の木。樹木医に見せたら、深刻そうな顔をするかもしれない。
桂の木の木漏れ日はどこか憂いを帯びた顔をしているが、その陰りが僕には心地よかった。
陰鬱そうに、街を見渡す桂の木。
息苦しいか、苦しかろう。
なあに、僕も君と同じだよ。
決して、この街からは出れないが
生ある限り根を張ろう。
命潰えるその日まで。
「最適解だけを指し示す羅針盤が欲しい。数ある世界線の中で1番魅力的な未来だけを常にさすの。」
受験勉強に疲れた。とにかくその一言に尽きる。参考書と睨めっこばかりしていたので、目も脳も疲弊している。
「それって、ゲームで言う攻略本見ながらRPG楽しむ感じ?探索の醍醐味が全くないな。」彼は鼻で笑いながら、一口サイズのチョコレートを机に投げ入れた。
「チョコ乙!」
「ん。」
私は彼から貰ったチョコレートの包みを開けて口に入れた。甘い。脳に行き渡るこの上なき幸福。
「だって、未来って不安だもの。受験だけじゃないよ?社会情勢、日々のニュース、何をとっても不安ばかり。考えるの疲れた。最適解だけ知りたい。」
「自分で選択して選ばない未来ってつまらんだろ。失敗も挫折も含めて人間性ってのは磨かれるんじゃねぇの。」
「……君一体人生何周目?」
私が思わずそう言うと、彼は不敵に微笑んだ。