「対象年齢12歳以下」
そこら辺のガタイのいい小6男児よりは体重が軽いから大丈夫だろうと、年齢制限を無視してブランコに座る。
朝4時、誰もいない公園で一人、身体に溜まった疲れをブランコの勢いで飛ばす。散歩する犬の鳴き声が聞こえるようになるまでは、私だけの時間。ただひたすらに無心で乗り続ける。心はまだ12歳以下のようだ。
僕たちは幼少期から3人で一緒だった。小学校も、中学校も、高校になってもずっと同じクラスで僕たちは家族のような関係だった。
それが揺らいでしまったのは僕のせいだ。
いつも3人で帰っていたのに、今日は2人きり。と思ったら、置いていかれたあの子が僕らを走って追いかけてきた。
「あんたたち、付き合ったんでしょ?お幸せに。」
そう言って僕らを追い抜いて行った。
いつの間に気づかれていたんだ、と驚いたが、10年以上の付き合いだからバレるのも当然か。
あの子は、気遣って僕ら2人の時間を作ろうとしてくれているのか、他の友達と話すようになってしまって、3人で話すことはなくなった。僕たちと話している時よりも笑顔が引き攣っていて、どこか無理しているように思えた。
僕のせいだ。僕がちゃんと謝らなきゃ。放課後待ってて、とだけ伝えて、自販機であの子が大好きなコーンスープを2つ買って、屋上へ向かう。
屋上の扉を開けると、木枯らしが吹いていて、いつも以上に肌寒かった。
寒がりあの子はマフラーに手袋、イヤーマフまで付けているくせにミニスカートで、木枯らしに乱された髪と葛藤しながら僕を待ってくれていた。
「ごめん。」
僕は呟くことしか出来なかった。木枯らしのせいで聞こえているかどうかさえ怪しかった。
「いいんだよ。私絶対あんたのこと好きにならないんだし、恋愛くらい好きなようにやりなよ。」
「また3人で仲良くしてくれる?」
「無理。私なんかに気遣ってないで彼女大切にしなね。てか私さ、彼氏が待っててくれてるんだよね、もういい?」
僕が渡したコーンスープの缶を開けないまま、あの子は帰ってしまった。また強い風が吹く。見下ろせば、枝だけの木が震えている。僕らの選択は間違っていたのだろうか。
「鏡よ鏡、世界でいちばん美しいのはだぁれ?」
白雪姫ではなくお后様に憧れたのか、女は私に尋ねた。
私は何も言葉を返せなかった。所詮ただの鏡である。言葉を発する鏡なんて、おとぎ話の世界に留めておくべきで、現実にあってはならない。だいたい、いい歳してそんなことを鏡に向かって聞くなんて馬鹿げている。実際、女が世界でいちばん美しくあろうとも私はそうは言えない、ひねくれた思考を持つ鏡である。
女は着信音で震えるスマートフォンを手に取り、画面の奥の誰かと話し始めた。男の声がする。どうやら明日、女はデートに行くらしい。だからか、最近は私の前で念入りなスキンケアをこなし、アイラインを引いては消してを繰り返し、心配になるほどアイロンとドライヤーを駆使して髪をいじっていたわけだ。
たった一人の愛する者のために、ここまで努力する姿を見ているのは私だけである。なのに、私は女に美しさを伝えることができなかった。
この世界は、82億人の人生の瞬間を切り取ったものを貼り繋いで成り立っている。
この世界で、人間として生まれた私たちにしかできない経験をたくさん積んで生きてきた。
それは理不尽で醜い瞬間ばかりであった。
努力が報われない瞬間、怠惰な人が高評価を受ける瞬間、思わず涙を零した。
ただ美しい瞬間もあった。
努力が報われた瞬間、怠惰な人が見捨てられる瞬間、思わず笑みが溢れた。
もしどこかに違う世界が存在したとしても、私たちはこの世界しか知ることができない。この世界に生まれたことは、いくら理不尽で醜いことと直面しようとも、受け入れるしかない。比べる対象がないからこそ、この世界は酷いとも言えるし、素晴らしいとも言える。
私が思うには、この世界は酷い。ただ、醜い瞬間を乗り越え、美しい瞬間を迎えることができたら、きっとこの世界が素晴らしいと思えるだろう。
今日はお題を見ても何を書けばいいのか全く思い浮かばない。どうして、どうしてだろう。いくら考えても答えは見つからなかった。
物事には必ず理由がある。そう信じて、ありとあらゆる状況において、無理矢理にでも理由を見出してきた私にとっては珍しい状況だ。
人間は論理を捨てて感情で動くことがある。私はそれが嫌いだ。それなのに、今日の私は論理を捨てている。
人間なんだから、理由なくやりたいことだって、理由なく好きなことだって、あってもいい。そう思えるような、柔軟な心を持って生きたい。