Una

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10/9/2024, 7:28:21 AM

今日も忙しない街の中で一人一人それぞれが選択肢に衝突し、選んだ道を進んではまた、次の選択肢に衝突する。私もその中の一人である。

周りからは、明るい、元気、いつも笑顔、ポジティブ、友達が多い、可愛い、優しい、八方美人、口が悪い、裏表がある、何も考えずに生きている、とよく言われる。「人生イージーモードじゃん」
「何も考えてなさそう」
「羨ましい」
つらつらと勝手に並べられる印象には、どれも反吐しか出ない。

私は中学生の頃、人との関わり方が分からなくて、不登校になったことがある。正確にいえば、登校拒否だと思う。あの時、助けてくれる人は誰もいなくて、自分を守れるのは自分しかいないのだと実感した。だから、どんなに仲がいい人でも本当の私は見せることが出来ない。だって、殻が無かったら攻撃を防げないじゃない?私って繊細だから。

中学生のあの鬱時代を乗り越えた私は、考えを変えた。今までネガティブ思考だったのを、無理やりかと思うほどポジティブ思考に変換した。持ち歩く物は自分を忘れないようにしつつも、女子が持ってておかしくないもの。何か悪口を言われても自分が成長できるチャンスだと思った。誰でも持っている自分自身の考えはあるし、一人一人違う意見だからこそ、誰でもに自分を理解して貰えるように色んな人と関わった。自分の周りだけではなく、土俵の反対側から反対側の人まで、男女関係なく関わった。でも、

「八井崎、ほんと八方美人だよな〜」

「あの子誰にでもいい顔するじゃん」

「思わせぶりだったのかよ」

何故か悪い噂ばかりが増えていって。中学の頃に逆戻りするところだった。

だけど今の私は変わった。

強くなった。

生まれ変われた。


今日も私は表側を見せながら社会を歩く。
おちゃらけた何も考えてないお馬鹿な女子高生。選択という壁が迫っても、後先考えずに衝動で動く。口癖は「なんとかなる」。関わった人が笑顔になれるそんな女の子。

でも本当は。
考え過ぎて何も手がつかなくなるほど追い込まれながら、日々の選択という壁に体当たりしていく落ちこぼれた女子高生。ずる賢くて、人の隙間に入るのが上手くて、「どうにでもなれ」と思いながら人との関わりを営むような女の子。


_たまには本当の私でいいじゃないか。
いや、本当はいつも私がいい。
誰にもなれない唯一無二の私という存在を大事にしたい。

読者の貴方にも、この束の間の休息の時間をこの文を読んでいるだけでも与えられただろうか。
与えられたなら私は嬉しく思います。
明日も乗り越える為に深呼吸をして生きたい。
忙しない毎日を生きる皆様、いつもお疲れ様です。

「束の間の休息」

9/4/2024, 7:07:12 AM

ああ。
隠していてほしかった。

整った顔も。

それを崩すような太陽みたいな笑顔も。

誰にでも愛される愛嬌も。

いつでもポジティブなのも。

誰に対しても変わらず接する優しさも。

いつも明るく声をかけてくれるところも。

些細な変化に気づいてくれるところも。

会いたいって言ったら会いに来てくれるところも。

泣きたい時に顔を隠してくれるところも。

私の話を目を見て聞いてくれるところも。

急に真顔でドキッとする冗談を言ってくるところも。

変わらないヤンチャなところも。

全部全部好きだった。
これが貴方の一部なら全て受け止められるような気がしていた。

だから。


急に変わった髪型。

大人びた服装。

好きな音楽。

近づくとほんのり香る香水の匂い。

短期間で取った車の免許。

らしくない車の色。

首元に光るネックレス。

スマホを見る頻度。


全部。


全部わかってしまう。


貴方に好きな人が出来ていたこと。


私だけじゃなかったんだね。


「些細なことでも」

8/31/2024, 9:59:51 AM

「なんでよ!…私だけって…言ってたのに…」
「いや、だってお前さ、」
「なに?!まだお金足りない?!!もっと積めって?!」
「違ぇよ、そうじゃねぇって、話聞けよ、」
「なによ!!あんたも私のこと……」

喧嘩している二人の男女は、傍から見たらただのカップルでしかないのかもしれない。けど、私には分かる。あれはホストと姫。私の住む歌舞伎町ではいつもの光景すぎて、最近ではその真横を素通りするのが楽しみになってきているほどだ。今日も通りがかればいつもの二人。歌舞伎町のナンバーワンホストの男と、ホストを渡り歩いては自論を吐き出して出禁になることで有名な女。女はいつも男のズボンを逃がさんとばかりの力で掴んでいて、男がやっとこさ逃げれたと思えば、高そうなスーツにはシワが馴染んでいる。可哀想に思いながらも、今日も帰路に着いた。
家に帰ればこじんまりとした玄関が私を迎え入れた。買ってきた冷凍食品を乱雑に電子レンジに投げ入れる。電子レンジで温かくなったはずなのに、私の心は冷えきったままだった。スマホの写真フォルダを漁る。まだ気合いが入った化粧の私と、大好きだった彼。沢山の彼との思い出は写真になって残されていた。もうこの思い出たちは五年前のことだってことも、すっかり忘れていた。

__五年前、私は新入社員ということもあり、仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。そのお陰か、仕事の飲み込みも早く、他の同期の子たちよりも結果が実るのが早かった。上からは認められ、下からは尊敬の目を浴びるようになった。自分の才能を認められる度に増えていく仕事量。認められるほど増える大きな商談。自分に課せられた責任感、上からの重圧。気付けば私の身体は、会社に行くことを拒絶し始めた。手足は痺れたように震え、喉が絞られているような感覚に襲われ、声が出なくなった。母に勧められて行った精神科病院で、私は鬱病と判断された。
会社には退職届を出して、実家に入り浸る生活が始まった。最初は外に出ることもままならなかったが、少しずつ外に出れるように練習をした。夜の散歩、早朝のランニング、母とジョギング、近所の人と挨拶。練習の成果もあり、一ヶ月が経つ頃には一人で買い物に行けるようになった。近所の人と会話も交わすようになった。

元通りの自分を取り戻せてきたある日、高校から疎遠になっていた幼馴染の麻弥から急に連絡が来た。
「久しぶりに会わない?それに今のあんたになら、私の秘密の花園を教えてもいい気がする」
"秘密の花園"が何かも知らないのに、なぜか心が高鳴った。会おうと返事をして、実際に麻弥と会って紹介された彼女の秘密の花園が、歌舞伎町のホストクラブだった。
「どう?一回入ってみない?」
その言葉に静かに頷いて麻弥の後に続いた。
席に着くと、早速私たちの席の方に向かって歩いてくる男の人が見えた。麻弥が手を振ると、彼も手を振り返した。彼は麻弥の隣に座って私に挨拶をした。
「初回の子?初めまして、勇也です」
お互いに会釈を交わすと、勇也くんは麻弥に付きっきりなってしまった。暇だなあなんて、天を泳いでいると隣に人の気配を感じた。隣を見ると、勇也とは真反対の見た目の好青年が座っていた。
「初めまして、葵です。勇也さんのヘルプに付いてて、もし良ければ僕とお話しませんか?」

この瞬間、私はホストに堕ちた。

毎日のように通い詰め、葵くんを指名し、同伴アフターは勿論、プライベートでも会うような仲になった。
「僕のことこんなに指名してくれるのは君だけだよ。ほんとにいつもありがとね。」
そうやって笑ってくれる葵くんが見たくて、どんどん入れるお酒の金額は大きくなっていった。一ヶ月も経った日には身体も重ね合わせた。もう彼のことは何でも知り尽くしたし、彼のことを一番好きなのは私だと思っていたし、彼も私が一番好きだと思っていた。


「ごめん、俺」
一人で買い物をしていた時にたまたま見つけた葵くんに、声をかけようと思って気付いた。彼の隣にいた女の存在。彼の一声で気付いた。私と会う時とは違う一人称。彼と女を見て気付いた。恋人繋ぎで重なった二人の掌。二人の手を見て気付いた。薬指に輝く指輪。

あの時私は我に返って、ホストクラブに通うのを辞めた。けど、まだ彼を忘れられたわけじゃない。彼は当時、歌舞伎町に住んでいた。彼にまとわりついていたあの街の匂いは、そう簡単に消えない。

私は今日も明日も、歌舞伎町の匂いを自分につけて外に出る。

「香水」

8/24/2024, 9:57:38 AM

「もう朝か。」
見知らぬ家に来て気付けば長い時間が経過していた。窓から見える太陽も今となっては見慣れた。眩しい光に纏わりつかれながら、布団から抜け出す。相も変わらず真ん中に一つ置かれた机には、彼が作ってくれたご飯がラップに包まれている。白くなっているラップを見て、部屋の扉を忙しく開ける。彼がいるかもしれない。作ったばかりの温かいご飯は、彼の存在を証明するのに十分だった。でも、もう既に彼は出かけてしまっていたようで、姿は見えなかった。

彼との出会いはほんの一か月前。
私は学校でいじめを受けていた。最初は陰口から始まり、直接的ないじめに変わっていった。物は無くなり、制服や髪の毛はあられもない姿になった。終いには暴力になり、毎日傷が増え続けていった。それに加えてDV気質な父親と、その父親のせいで変わってしまったネグレクトの母親。家に帰ったところで、心配されるわけなどなくて、唯一味方だと思っていた先生は、私を大切にするという名目で身体を触ってくるようになった。私の頭の中に味方の文字はなかった。
そんな時、私は河川敷で彼に出会った。パーカーを深く被り、肌という肌をこれでもかと隠すような服装、足元には虫が集まっているようにも見える。何分、何時間ここにこの人は留まっていたのだろう。興味本位で私は彼に声をかけた。最初は無愛想な返事ばかりだった。つまらなくなって自分の話を始めた。彼はつまらなさそうな顔をしながらも、相槌だけはずっと打ってくれていた。最後に私は深呼吸をして言った。
「ねぇ、私のこと誘拐してよ。」
あの時の彼の顔を私は忘れたことは無い。複雑な顔。この世にある五十音を絡めただけでは表しきれない顔。沈黙の後に静かに彼はまた相槌を打った。

それから私たちの誰にも知られない生活が始まった。彼は誘拐犯、私は被害者。世間には誤った情報しか流れない。私の身体を、私の家庭事情を知られたくない親は、今までに見た事ない形相でテレビの前にいるであろう視聴者に、私の無事を訴えかけていた。
「犯人め、うちの子を早く返せ!」
「お願いだから、私の大事な娘を返して…。」
怒号を飛ばす父親は、きっと私につけた暴力の痕を消すのに必死。涙ぐみながら話す母親は、きっと自分が記憶から消したはずの私を、バレないように片付けるので必死。テレビという電子機器に誤った情報を流されているのは、私と彼のことだけではなかった。私と親と名付けられた二人の男女間の関係もだった。そんな誤った情報に踊らされているニュースのアナウンサーは、私の捜索を進めることを告げた。

彼は毎日名も無き場所へ出かけていく。行き先に関して私に何かを告げることは一度も無かったけれど、ご飯だけは毎日用意されていた。起きるとまずは食卓と思われる簡素な机に、一人分だけ差し出された食事を胃の中へ流し込む。昼ご飯は、冷蔵庫の中に作り置きされており、一緒に置かれたメモを見て電子レンジで加熱する。夜は彼が帰ってくるのを待ち、彼が作った出来たてのご飯をまた胃に流し込む。彼のおかげで私はいつも温かいご飯が食べられている。今まで食べたことない口に広がる食材の味と、熱を感じる彼の料理が私は大好きだった。

ある日起きると私の布団のすぐ側に、彼が座り込んでいた。何かあったのかと顔を覗き込むと、
「今日この家を出よう。」
彼は小さな声で、けれどはっきりと一言放った。つまり彼が言いたいのは、きっと駆け落ちのことだろう。もう警察に居場所がバレたのかもしれない。もうじきここに警察か何者かが来ることを、彼は察知しているように見えた。
大事なものだけを鞄に詰めて家を出る。彼から貰った帽子を深く被り、彼の服に身を包ませる。気付けば私の周りには彼のものが満ち溢れていた。もぬけの殻になった部屋や、ゴミ袋いっぱいに収容された机や椅子たちを見て、何だか全てが終わってしまうように感じた。誘拐された時から、もう後にも先にも引けなかったのかもしれない。

二人手を繋ぎ、誰もいない細道を通る。数多の家の換気扇から漏れる排気ガス。誰にも回収されない収集所に積み上げられたゴミ袋。お腹を空かせた野良猫。嘘にまみれた関係性の私たちの最後には、ぴったりな道かもしれなかった。汚いはずなのに、臭いはずなのに、何だか居心地がよくて、ここから離れたくなかった。私は薄々勘づいていた。これから向かう先で、私たちの身に何が起こるのか。その何かの正体。もうこの世界には戻って来れないだろう。
何時間も歩いた末、辿り着いたのは崖の上で、そこから見えたのは綺麗な海だった。生き物を住まわせ、太陽からの言葉を反復する。何にも染まっていないはずなのに、この世界に馴染んでいるように見えた。海から見える私たちは、きっと異質な何かでしかないんだろう。

急に彼の手が震え始める。耳を澄ませると誰かの足音が聞こえた。後ろを振り向くと、そこには警察官が立っていた。
「ようやくここまで追い詰められた…!」
応援を呼んでいたのか、その警察官の一言で後ろからぞろぞろと仲間達が私たちを囲った。
恐怖で足がすくむ。もう終わってしまう。彼との二人だけの世界が壊され、また味気のない世界に引き戻されてしまう。震えながら彼の顔を見る。彼の瞳は私を捉えていた。
「一緒にあっちに行こう。」
初めて耳にすんなり入った彼の声は、私を突き動かすのに十分なほど、響いて聞こえた。私たちは手を握り直し、二人で笑って、

飛んだ。


-ある日のニュース速報による情報-
20xx年某日に起きた少女誘拐事件の犯人と、その少女の遺体が、○○県の△△市の□□海沖で発見された。二人の遺体はお互いの手を握りながら、速いスピードで頭部から落下したと推定された。顔の原型は留めてなかったのだとか。現場にいた警察官の証言によると、犯人の男は飛び降りる直前、少女に対し「あっちに行こう」と発していたそう。このことに対し、警察側は「あっちとは、海のことなのか天国のことなのか、どちらを指していたのかは分からない」との見解を示していた。

-少女の日記より-
〇月△日 私と彼は、明日この世界から旅立つらしい。彼はきっと何かを感じてる。それが私にとっていい事なのか、悪い事なのかは分からない。考えたくない。私は彼が行く場所へ着いていくだけ。
あーあ。死ぬ前に海に行ってみたかったな。汚い私が綺麗な海で洗われたら、きっと私も綺麗になれるよね。貴方を信じてる。最後は一緒に飛び込もう。

「海へ」

8/1/2024, 4:01:33 PM

今日から梅雨明けだと聞いていたのに、まったく梅雨明けを感じさせない豪雨が、街を襲っていた。気温は寒く、傘を持つ人達は皆寒そうに腕を摩っている。
明日は学校の卒業式だというのに、こんな雨が明日も降るかと思うと嫌気がさす。ため息をついて傘を開く。傘を打つ雨音がイヤホンを通して耳に飛び込む。お陰で大好きな歌手の声は全く聞こえない。さっき買った花束は、雨音に誘われて傘の外へ出ていこうとする。雨粒が触れたところからまた色づき始めるように、花は更に綺麗さを増していく。それに反して、僕の心はどんどん憂鬱さが増していった。

家に帰ってすぐにシャワーを浴びる。自分一人しかいない無機質な空間と化したこの家も、もうすぐ引っ越すことになるだろう。カレンダーを見つめて、明日の日付に視線を合わせる。明日は彼女の誕生日だ。彼女は生粋の晴れ女で、彼女と出かけた時に雨が降ったことは今までに一度もない。僕の記憶の彼女は、いつも太陽の下で笑っていた。最近雨続きなのは、彼女に会えていないからかもしれない。
彼女は二年前、僕とのデート当日の快晴の日に交通事故に遭って亡くなった。あの頃の僕たちは高校三年生で、受験が終わるまで全く会えていなかった僕たちは、この日やっとデートの時間を作れたところだった。彼女は遅刻癖が無かったが、何かあったのかもと心配になりながら彼女を待っていた僕が、彼女の訃報を聞いたのはその日の夜だった。彼女の母親の震えた声から聞こえた知らせは、僕を悲しませるのに十分だった。

あの日以来、僕は恋人を作っていない。後にも先にも将来を誓えるのは彼女だけだと思う。それ程僕は彼女を愛していた。彼女が会いに来てくれた日は、またきっと快晴になる。僕の涙を拭きに会いに来てくれるはず、そう信じて晴れの日を待ち続けている。晴れたら、二人が出会ったクスノキの下で待ち合わせよう。そして、大きな花束と指輪をプレゼントしよう。明日はきっと、僕と彼女の結婚記念日になるだろう。

「明日、もし晴れたら」

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