今日から梅雨明けだと聞いていたのに、まったく梅雨明けを感じさせない豪雨が、街を襲っていた。気温は寒く、傘を持つ人達は皆寒そうに腕を摩っている。
明日は学校の卒業式だというのに、こんな雨が明日も降るかと思うと嫌気がさす。ため息をついて傘を開く。傘を打つ雨音がイヤホンを通して耳に飛び込む。お陰で大好きな歌手の声は全く聞こえない。さっき買った花束は、雨音に誘われて傘の外へ出ていこうとする。雨粒が触れたところからまた色づき始めるように、花は更に綺麗さを増していく。それに反して、僕の心はどんどん憂鬱さが増していった。
家に帰ってすぐにシャワーを浴びる。自分一人しかいない無機質な空間と化したこの家も、もうすぐ引っ越すことになるだろう。カレンダーを見つめて、明日の日付に視線を合わせる。明日は彼女の誕生日だ。彼女は生粋の晴れ女で、彼女と出かけた時に雨が降ったことは今までに一度もない。僕の記憶の彼女は、いつも太陽の下で笑っていた。最近雨続きなのは、彼女に会えていないからかもしれない。
彼女は二年前、僕とのデート当日の快晴の日に交通事故に遭って亡くなった。あの頃の僕たちは高校三年生で、受験が終わるまで全く会えていなかった僕たちは、この日やっとデートの時間を作れたところだった。彼女は遅刻癖が無かったが、何かあったのかもと心配になりながら彼女を待っていた僕が、彼女の訃報を聞いたのはその日の夜だった。彼女の母親の震えた声から聞こえた知らせは、僕を悲しませるのに十分だった。
あの日以来、僕は恋人を作っていない。後にも先にも将来を誓えるのは彼女だけだと思う。それ程僕は彼女を愛していた。彼女が会いに来てくれた日は、またきっと快晴になる。僕の涙を拭きに会いに来てくれるはず、そう信じて晴れの日を待ち続けている。晴れたら、二人が出会ったクスノキの下で待ち合わせよう。そして、大きな花束と指輪をプレゼントしよう。明日はきっと、僕と彼女の結婚記念日になるだろう。
「明日、もし晴れたら」
8/1/2024, 4:01:33 PM