なツく

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4/11/2023, 2:50:41 PM

朝、目を覚ますと昨日までの記憶が曖昧になる。

ニュースを見ながらトーストに苺ジャムを塗り牛乳を啜る。

顔を洗い歯を磨き髪を結ってカッターシャツの袖に腕を通す。

玄関を開け

「行ってきまーすっ!」

と言い家を出る。

教室に入ると後ろから

「おはよっ!」

と声を掛けられる。

振り向くと夕弦が居た。

「おはよぉー!!夕弦ぅぅー!!」

と言いながら抱き着き少し戯れ合う。

朝のチャイムが鳴り2人は席に着く。

ガラガラとドアを開け担任の山本先生が教室へ入ってくる。

「起立!礼!着席!」

「えー、皆さんおはようございます。ホームルームを始める前に、今日は皆さんに良いお知らせがあります。」

「‪‪彼方君、入っておいで。」

とドアを開け男の子が1人入って来ると同時にクラス内がザワ付き始める。

「あの子誰ー?転校生?」

「カッコイイ」

「名前なんて言うんだろー、」

「彼女とか居るのかなー?」

なんて言葉が耳を塞いでも聴こえる。

「えー、じゃあ皆さんに簡単に自己紹介をして。」

と山本先生が男の子に言うと、少し沈黙した後で

「彼方といいます。よろしく。」

と目線を逸らしながらボソボソと言った。

「(かなたって名前どこかで聞き覚えが、、)」

と、その男の子をジッと何かを狙う獣の樣に観察するが特に何も思い出せない。

「えー、これから卒業まで皆さん仲良くしてあげて下さい。えっと、彼方君の席は仲山さんの隣だから奥の空いてる所ね。」

彼方は席に着くと夕弦に話し掛ける。

「えと、なかやま、、さんで合ってるかな、?よろしく。」

と緊張しているのか、周りを気にしながらか細い声で言う。

「うん!私は仲山夕弦。よろしくね。」

と優しい笑みを浮かべながら言う。

一瞬で緊張が解けるほどの安心感に包まれる。

1限目が終わると、案の定クラスの女子は私と夕弦を除いて全員彼方君の元へ集まる。

「ねぇねぇ彼女居るの?」

「身長高いね!何センチあるの?」

「えと、、彼女は居ないよ。身長は、183、、」

と少し引き気味に苦笑いで答える彼方。

「彼女居ないんだー!ちょーモテそうなのに!」

「183ってめっちゃ高い!」

とそんな彼方とは裏腹に盛り上がる女子達。

質問攻めは毎日続き、彼方が転校して来て2ヶ月が経ち学校生活にも慣れ始めた頃

「はぁ、、」

と机に顔を付け溜息を吐く。

「彼方、三奈子お弁当一緒に食べよ」

と夕弦が誘う。

三奈子は、

「(また、、)」

「(こんな事に、嫉妬してるだなんて、、駄々捏ねて泣き喚く子供みたい、、)」

だと心の中で悲観する。

その時の弁当の玉子焼きの味は少しだけ薄く感じた。

雨の降る梅雨の時期、空は薄暗い雲に覆われて夕方になると水平線の彼方に沈む陽の光がその雲を射し茜色と藍色の二色のグラデーションが幻想的な風景を創り出す。

それは言葉一つで片付けるには勿体無いほど美しく毎日泣き続けて渇ききった私の心臓を撃ち抜いて潤してくれる。

「言葉に出来ない。気持ちを伝えられない。」

ただ一言

「好き」

と言うだけなのに、君に伝えるだけなのに私にはそれが出来無い。

彼方と公園のブランコを漕ぐ夕弦は

「三奈子はね、幼稚園の頃からの幼馴染みで性格は正反対だけど一緒に居て楽しいし気楽なんだ。だから、私は三奈子とずっと友達。もちろん彼方もね!」

と言い、彼方は話を聞き少し微笑んでいた。


「(私も、伝えられたら良いのにな、、)」

いつもより寂し気な宙には、カシオペア座が泛ぶ。

4/10/2023, 3:21:21 PM

草木も寝静まった夜更け過ぎ、心地好い夜風が頬を撫で擽られる。

少年は1人外に見える暗い森をただ呆然と眺めながら眠りに着く。

「起きて…起きて…」

と女性の声がする。

少年はハッと目を覚まし辺りを見渡すが誰も居ない。

「なんだ夢か、、」

もう一度眠りに着こうとするが急な寒気に襲われる。

「はっくしゅっ!!風邪引いたのかな、寒い、、」

身体がガタガタと震え急いで頭から何重にも毛布を被る。

しかし、服は冷や汗で濡れその上夜風に曝されていた為に身体が冷えきっており着替えも無かった。

少年の熱は上がり続け終いには視界が眩み意識が朦朧とし始めた。

「んッ、んんー、、」

毛布の隙間から朝陽が射し込む。

「朝、、?」

少年はいつの間にか気を失っていた。

「、ッ!?」

少年は咄嗟に毛布で身を包む。

動揺を隠せないまま恐る恐る顔を上げると、そこには肌や髪は白く毛先まで艶があり唇は韓紅色で貴賓高く、瞳は透き通る樣な勿忘草色をした見知らぬ女性が1人座って居た。

すると、女性が

「おはよ。」

と話し掛けてきた。

反射的に

「おッ、おはようございますッ!!」

と少し照れ臭さを混じえながら返す。

一瞬にして心を奪われた気がした。

「(心臓の音が煩い、、聴こえたらどうしよう、、)」

そんな事を考えながら

「あ、あの貴女は一体、、」

と女性に問い掛ける。

女性は優しく微笑み

「私は、雪女。昨日の夜、倒れてる君を助けた。」

と言ってきた。

少年の脳内が数秒間だけピタリと止まった。

「(この人は何を言ってるんだろう、、?)」

と言わんばかりの表情を浮べた。

その後、女性に家や家族、妖怪など色々な事を聞き少年は無事に村へ戻った。

村へ戻った少年はその体験を本に書き記し大切に保管していた。

それから約13年の時が流れ少年は町へと移り住み商売をしていた。

その頃には少年の記憶から女性は消え少年は1人の女性と結婚していた。

この手の話ならこの後に続くのは、

[少年は物置の整理をする為に古い物置小屋へ向かう。]と言った一文だろう。

しかし、それを日常生活に置き換えた時に少し違和感を覚える。

そして、最終的には物置小屋の中で見付かった本により記憶が蘇り少年はその場所へ向かう。

その後、女性と再会し2人は結ばれ幸せになるという樣な一見するとハッピーエンドを迎える事になるのだが、果たしてこれは2人にとってハッピーエンドなのかと疑問に思う。

そもそも、不倫になる事が許されている樣な描写。

また、残された妻はどうなるのという疑念が読者同士の論争にまで発展する事が多々ある。

[この話はその問題を解決すると共に、、、]

この後は、ご自身で感じた言葉を入れて下さい。

2人が結ばれたとて超える事の出来ない障壁が存在する。

それは寿命。

少年は老いや死がある人間。

雪女は老いも死もない妖怪。

少年の寿命と共に雪女は天涯孤独の道を往く事になる。

決して、相交えない2人が幸せになるにはどうすれば良いか。

答えは実に簡単で雪女が転生し人間となれば2人は共に生きる事が出来る。

そして、雪女は少年と別れた後に転生し再び少年の元に現れ2人は結婚していた。

魂の転生には、100から1000年と長い人も居れば半年から数年と短い人も居たりとかなり個人差があるが平均で4年5ヶ月と言われる。

目の前の恐怖から目を反らせば自己防衛に繋がるが君を待つものはその先にある。


目の前の恐怖とその先の幸福、君はどちらを選ぶ?

これは、とある少年と雪女の愛の御伽噺。

4/9/2023, 2:34:42 PM

春が終わり陽の光が肌を差す蒸暑い夏の日、青々とした空の下で私は眠る。

それは、とても深く広くずっと拡がり続け自分がこの世界にとってどれほど小さい存在なのかを実感する。

「みな…みなこ…三奈子…」

何処かで私を呼ぶ声が聴こえる。

目線の先にボンヤリと人影の樣なものが写し出される。

段々と視界が鮮明になるにつれ幼馴染みの夕弦だと判った。

夢で仲の良い人や知り合いと会って話したり遊んだりするというのはよくある事で、それが明晰夢になると感覚もより鮮明になる。

脳科学的にとか難しい話は置いて簡単に言うと、[夢を意のままに見れ現実世界と変わらない感覚が味わえる]そんな感じらしい。

「(あぁどうせ夢の中なら夕弦とこのまま、、)」

と明晰夢に酔い知れている自分が馬鹿みたいだと嘲笑う。

「(夢の中だけじゃなく現実世界でも夕弦とこうなれたら良いのにな、、)」

「(ずっと夢の中に居たい。)」

ずっとそんな思いが脳裏に媚り着いて離れようとしない。

夕弦が不登校になって3ヶ月が経ち、その間私は毎日学校帰りに夕弦の家へと立ち寄り持ち物や連絡をした。

「(他の皆は誰も協力しない。誰も、、)」

「(私は夕弦の幼馴染み、ずっと友達だから絶対に助ける。)」

そんな自分は優越感に浸り、知らず知らずの内に

「夕弦の為なら。」

と平気で他者を批難し傷付けてしまう人間に成り果てていた。

いや、ただ

「素の自分に戻った。」

だけか。

夕弦とは幼稚園の頃からの幼馴染みで、私はいつもクラスの端っこの方で夕弦と2人で遊んでいた。

「大人しく優しい性格の夕弦とそれとは真逆の私。」

どうやって仲良くなったのか今じゃそんな事忘れて毎日くだらない会話で笑って遊んで。

「(この先ずっと想い続けても何も変わらない。)」

そうやって自分に何度も何度も言い聞かせ諦めようとした。

それでも、他の誰よりもずっと優しくて、楽しくて、大好きで。

夕弦にはずっと自分を隠していた。

「嫌われるのが嫌だから。独りになるのが怖いから。」

「この想いを伝えたら夕弦は何を思い感じ何を言うだろう。」

徐々に不安が渦となり止まらなくなる。

一晩中悪夢にでも魘されていたかの樣な青冷めた表情でトーストを齧る。

「早くしないと遅刻するわよ。」

と家事をしている母が言っているのが聴こえた。



「(夕弦、明日は学校来てくれると良いな。)」

そして今日もまた、私は眠る。

4/8/2023, 5:54:19 PM

朝から雨が降り、窓の外に見える桜は何処か寂しそうな顔をしていた。

「私は、明日死ぬ。」

毎晩そう呟いては、今日もまた目を覚ます。

私が小学生の頃に母が交通事故で他界し、それから父は一切喋らなくなった。

中学に上がった頃には周りから酷く虐められ精神的にも耐えられず不登校が続いていた。

インターホンが鳴り玄関を開けるとそこには幼馴染みの三奈子が立って居た。

私が不登校になってから毎日家に寄って翌日の持ち物や連絡をしてくれる。

「元気なさそうだけど大丈夫?風邪でも引いた?」

と優し気に微笑みながら聞いてきた。

私は戸惑いながらも

「ううん、大丈夫。元気だよ、、」

と苦笑いで返した。

玄関先で暫く話した後、三奈子は家へ帰った。

毎日、毎日、毎日…そうやって話しに来てくれるのが嬉しいのか嫌なのか自分には解らなかった。

「はぁ、、」

私は酷い頭痛に襲われ玄関先で深く溜息を吐いて屈んでいた。

「カチカチカチ…」

リビングにある時計の音が玄関先まで聴こえる。

家の中は静寂に包まれまるで、深い水の底に落ちてしまったかの樣に緩やかに時間だけが過ぎて往った。

気が付くと辺りは暗くなり時計の針は3時間程進んでいた。

いつの間にか眠ってしまっていたのだろう。

窓の外を見ると、そこには月も見えないほど光る夜景が拡がっていた。

すると、瞳から自然と涙が溢れ必死に拭き取とり止めようとするが涙は止まらなかった。

「周りに何て言われるか何をされるか分からない…怖い怖い怖い帰りたい帰りたい、、」

そんな恐怖心を必死に抑え自分の席に着く。

「おはよ。」

顔を上げるといつもと変わらず優し気な笑みを浮かべた三奈子が立って居た。

「学校来れたんだね。」

と三奈子が続ける。

私は

「うん。ちょっと来てみようかなって、、」

とまた苦笑いで返す。

三奈子は

「偉い偉い。」

と言いながら少し生暖かい手で私の頭を撫でた。

たった3ヶ月ちょっとの間だけなのにとても懐かしく照れ臭かった。

他の生徒も登校し教室に入ってくる。

私を虐めていた数人の男子グループの生徒も登校して来た。

直ぐに私の前に来たが何もして来ない。

口元をよく見るとボソボソと何かを呟いていた。

耳を澄ますと

「ごめん、ごめん。」

と何度も繰り返していた。

彼の目は涙で滲み頬は赤くなっていた。

学校での虐めが無くなり私はまた毎日登校する樣になった。

雨が上り澄み切った空には大きな虹が掛かり道にある水溜りを跳び越える。

誰しもが一度は経験があるだろう。

数人の友達と思い付きのゲームをしながら下校をする。

私はそれがとても楽しかった。

そして、私たちは友達の証として合言葉を決めた。

「これから何があっても私たちはずっと友達。」

こんな遣い古された臭い台詞でも

「何も無いよりはマシ、、」

か。



これからもずっと、私は今日を生きる。