なツく

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朝、目を覚ますと昨日までの記憶が曖昧になる。

ニュースを見ながらトーストに苺ジャムを塗り牛乳を啜る。

顔を洗い歯を磨き髪を結ってカッターシャツの袖に腕を通す。

玄関を開け

「行ってきまーすっ!」

と言い家を出る。

教室に入ると後ろから

「おはよっ!」

と声を掛けられる。

振り向くと夕弦が居た。

「おはよぉー!!夕弦ぅぅー!!」

と言いながら抱き着き少し戯れ合う。

朝のチャイムが鳴り2人は席に着く。

ガラガラとドアを開け担任の山本先生が教室へ入ってくる。

「起立!礼!着席!」

「えー、皆さんおはようございます。ホームルームを始める前に、今日は皆さんに良いお知らせがあります。」

「‪‪彼方君、入っておいで。」

とドアを開け男の子が1人入って来ると同時にクラス内がザワ付き始める。

「あの子誰ー?転校生?」

「カッコイイ」

「名前なんて言うんだろー、」

「彼女とか居るのかなー?」

なんて言葉が耳を塞いでも聴こえる。

「えー、じゃあ皆さんに簡単に自己紹介をして。」

と山本先生が男の子に言うと、少し沈黙した後で

「彼方といいます。よろしく。」

と目線を逸らしながらボソボソと言った。

「(かなたって名前どこかで聞き覚えが、、)」

と、その男の子をジッと何かを狙う獣の樣に観察するが特に何も思い出せない。

「えー、これから卒業まで皆さん仲良くしてあげて下さい。えっと、彼方君の席は仲山さんの隣だから奥の空いてる所ね。」

彼方は席に着くと夕弦に話し掛ける。

「えと、なかやま、、さんで合ってるかな、?よろしく。」

と緊張しているのか、周りを気にしながらか細い声で言う。

「うん!私は仲山夕弦。よろしくね。」

と優しい笑みを浮かべながら言う。

一瞬で緊張が解けるほどの安心感に包まれる。

1限目が終わると、案の定クラスの女子は私と夕弦を除いて全員彼方君の元へ集まる。

「ねぇねぇ彼女居るの?」

「身長高いね!何センチあるの?」

「えと、、彼女は居ないよ。身長は、183、、」

と少し引き気味に苦笑いで答える彼方。

「彼女居ないんだー!ちょーモテそうなのに!」

「183ってめっちゃ高い!」

とそんな彼方とは裏腹に盛り上がる女子達。

質問攻めは毎日続き、彼方が転校して来て2ヶ月が経ち学校生活にも慣れ始めた頃

「はぁ、、」

と机に顔を付け溜息を吐く。

「彼方、三奈子お弁当一緒に食べよ」

と夕弦が誘う。

三奈子は、

「(また、、)」

「(こんな事に、嫉妬してるだなんて、、駄々捏ねて泣き喚く子供みたい、、)」

だと心の中で悲観する。

その時の弁当の玉子焼きの味は少しだけ薄く感じた。

雨の降る梅雨の時期、空は薄暗い雲に覆われて夕方になると水平線の彼方に沈む陽の光がその雲を射し茜色と藍色の二色のグラデーションが幻想的な風景を創り出す。

それは言葉一つで片付けるには勿体無いほど美しく毎日泣き続けて渇ききった私の心臓を撃ち抜いて潤してくれる。

「言葉に出来ない。気持ちを伝えられない。」

ただ一言

「好き」

と言うだけなのに、君に伝えるだけなのに私にはそれが出来無い。

彼方と公園のブランコを漕ぐ夕弦は

「三奈子はね、幼稚園の頃からの幼馴染みで性格は正反対だけど一緒に居て楽しいし気楽なんだ。だから、私は三奈子とずっと友達。もちろん彼方もね!」

と言い、彼方は話を聞き少し微笑んでいた。


「(私も、伝えられたら良いのにな、、)」

いつもより寂し気な宙には、カシオペア座が泛ぶ。

4/11/2023, 2:50:41 PM