雨音水(あまねすい)

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2/2/2025, 7:54:17 PM

 BGMを聴くと想像力が掻き立てられる。けれど歌詞付きの曲でなければ、魂が震えるような感覚を味わえない。これは、言葉には魂が宿るという定型句の的を射ている好例だ。
 では、詩や小説のように、言葉だけが並べられた媒体はどうだろう。感心することはあれど、総毛立つ頻度は、先の例と比較すると大幅に減少するのではないのだろうか。少なくとも、私はそうだ。詩の表現には感心するだけで、小説の場合、どちらかというと物語の流れのほうに目がいく。表現の粗が気になったとて、全体像に納得できればそれで満足なのである。
 しかし、しばしば物語の中に登場する手紙にはめっぽう弱い。自分が受け取ったものとして感情移入しやすいからだ。物語にはメッセージ性があると言われているけれど、その小道具として仕込まれた手紙からのほうがより強い想いを感じられる。これこそ、物語の中に隠された手紙《メッセージ》を受け取っているという証に他ならないのではないのだろうか。手書きのものが採用されていた場合、柄にもなく号泣してしまうだろう。

3/27/2024, 11:30:08 PM

 自分の気持ちすら理解できないのに。
 他人の気持ちを理解することなど、できるはずもありません。
 配慮、気遣い、思い遣り。
 これらが必要不可欠であることは、重々、承知しています。
 しかし、私は、自己本位でしか動けないのです。
 五つ年上の旦那様がお仕事なさっている間、私は、お洗濯やらお掃除やらをしなくてはなりません。お料理の勉強もです。
 だというのに、私は、何をするというわけでもなく、ただただ気力が湧かないという理由だけで、日がな一日、茶の間に寝そべっているのです。
 そして、旦那様がご帰宅なさると、旦那様は呆れた表情をお浮かべになって、それに堪えかねた私は、旦那様が汗水流してお稼ぎになったお金を持って、隣町の居酒屋へ逃げ込み、私が悪いというのに、旦那様のことを悪く言ってしまうのです。
 この悪癖は、私が死ぬまで、治ることはありません。
 治したいという強靭な意志があれば良かったのですけれども、お生憎様、軟弱者の私は、そのような大逸れた信念など、持ち合わせていないのです。
 旦那様、どうか、こんな私を、早く見棄ててください。
 そうすれば、旦那様も、私も、いまよりはまともな生活を送ることができるでしょう。

3/22/2024, 11:22:06 AM

 勝ち負けに拘るなんて、バカみたいだ。

 周囲の子たちがおもちゃを取り合っている姿を見て、幼心ながらにそう思ったことを、いまでも覚えている。

 その考え方は高校生になるまで変わらなかったけれど、思考パターンが変化するにつれ、気付いたことがいくつかあった。

 競争を毛嫌いしても、どうしたって、その仕組みからは抜け出せないということ。

 勝利への渇望と敗北への悔恨がなければ、精神的な成長は望めないということ。

 これらを把握してから、私は、物事に対して一生懸命に取り組むようになった。

 普段の授業や定期考査はもちろん、高校生になってから始めた、バレー部の活動にも。

 ただ、ひとつだけ、どれだけ頑張っても実らないことがあった。

 恋愛関係だ。

 同級生に御社怜《みやしろれん》という男の子がいて、数えるほどしか喋ったことがないのだけれど、ぼんやりしているように見えてきちんと周囲を洞察している、その不思議な人柄に惹かれた。

 顔はどちらかというと、小動物を連想させる可愛い系。

 髪は薄っすらと茶色く、癖がない。

 メガネは、着けているときとそうでないときの割合が、六:四くらいだ。

 私の恋心が叶わないと発覚したのは、ある休日の出来事が関係していた。

 お姉ちゃんとの買い物で近場のデパートに足を運んでいると、彼が、私のクラスにいる、学年一可愛いと言われている女の子とデートしている姿を目撃したのだ。

 最初《はじめ》、目を疑った。

 私はその女の子と仲が良く、彼女の口から、一度たりとも、その事実を聞いたことがなかったからだ。

 それゆえ、ショックはより大きかったのだろう。

 私の挙動は次第に不審になり、お姉ちゃんに「大丈夫?」と心配されてしまった。

 泣きそうになって、「ごめんね、お姉ちゃん。私、先に帰るね」とだけ一方的に告げ、「あ、ちょっと!」と呼び止めようとするお姉ちゃんを置き去りにして、私は全速力で自宅のほうへ駆けた。

 走っている最中、溢れる涙は止まらなかった。

 帰宅したあとも、自室のベッドの上で、苦しい胸を抑えながら、嗚咽を漏らして泣いた。

 しばらくして泣き止み、状態が落ち着いてから彼女に事実確認をしたけれど、私の予想した通りだった。

 それが、一年前のこと。

 二年生に進級して、二ヶ月が過ぎた。

 いまはもう六月。梅雨の季節。

 彼と彼女の交際は、現在でも続いている。

 それでも、私はまだ、彼のことを諦めきれないでいる。

 行動しなかった自分が悪いのに、未練たらたらで、本当に、バカみたい。

 雨が降り始めたら、Aimerの『Ref:rain』でも聴こう。

 雨と失恋の歌が、いまの私にはお似合いだから。
 
 

3/21/2024, 10:25:48 AM

 淡い、淡い、二人だけの時を刻む
 脈は早搏《はやう》っているのに
 一秒が、永遠のように感じられる
 私たちは、特殊相対性理論の中
 時よ、どうかこのまま
 幸福な幻想《ユメ》を、見させていてください

3/20/2024, 12:42:56 PM

 現実は夢であり、夢もまた現実である。
 醒める夢はない。

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