雨音水(あまねすい)

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 勝ち負けに拘るなんて、バカみたいだ。

 周囲の子たちがおもちゃを取り合っている姿を見て、幼心ながらにそう思ったことを、いまでも覚えている。

 その考え方は高校生になるまで変わらなかったけれど、思考パターンが変化するにつれ、気付いたことがいくつかあった。

 競争を毛嫌いしても、どうしたって、その仕組みからは抜け出せないということ。

 勝利への渇望と敗北への悔恨がなければ、精神的な成長は望めないということ。

 これらを把握してから、私は、物事に対して一生懸命に取り組むようになった。

 普段の授業や定期考査はもちろん、高校生になってから始めた、バレー部の活動にも。

 ただ、ひとつだけ、どれだけ頑張っても実らないことがあった。

 恋愛関係だ。

 同級生に御社怜《みやしろれん》という男の子がいて、数えるほどしか喋ったことがないのだけれど、ぼんやりしているように見えてきちんと周囲を洞察している、その不思議な人柄に惹かれた。

 顔はどちらかというと、小動物を連想させる可愛い系。

 髪は薄っすらと茶色く、癖がない。

 メガネは、着けているときとそうでないときの割合が、六:四くらいだ。

 私の恋心が叶わないと発覚したのは、ある休日の出来事が関係していた。

 お姉ちゃんとの買い物で近場のデパートに足を運んでいると、彼が、私のクラスにいる、学年一可愛いと言われている女の子とデートしている姿を目撃したのだ。

 最初《はじめ》、目を疑った。

 私はその女の子と仲が良く、彼女の口から、一度たりとも、その事実を聞いたことがなかったからだ。

 それゆえ、ショックはより大きかったのだろう。

 私の挙動は次第に不審になり、お姉ちゃんに「大丈夫?」と心配されてしまった。

 泣きそうになって、「ごめんね、お姉ちゃん。私、先に帰るね」とだけ一方的に告げ、「あ、ちょっと!」と呼び止めようとするお姉ちゃんを置き去りにして、私は全速力で自宅のほうへ駆けた。

 走っている最中、溢れる涙は止まらなかった。

 帰宅したあとも、自室のベッドの上で、苦しい胸を抑えながら、嗚咽を漏らして泣いた。

 しばらくして泣き止み、状態が落ち着いてから彼女に事実確認をしたけれど、私の予想した通りだった。

 それが、一年前のこと。

 二年生に進級して、二ヶ月が過ぎた。

 いまはもう六月。梅雨の季節。

 彼と彼女の交際は、現在でも続いている。

 それでも、私はまだ、彼のことを諦めきれないでいる。

 行動しなかった自分が悪いのに、未練たらたらで、本当に、バカみたい。

 雨が降り始めたら、Aimerの『Ref:rain』でも聴こう。

 雨と失恋の歌が、いまの私にはお似合いだから。
 
 

3/22/2024, 11:22:06 AM