あのお方は、祈られる器量のある人なのだ
祈られる器をしているから、おれみたいな腐ったリンゴのようなやつにまでまとまりつかれて、本当に哀れに思う
あのお方がおれにほほ笑みかける時 あのお方がこちらに気づいて「やあ 待っていたんだよ」とこちらに歩みを進める時
おれ、何回この時を経験しても心臓が壊れた螺巻のおもちゃみたいにはね回って止まらなくなる
わかっている あのお方の優しさは、平等なのだ
わかっている あのお方の優しさは、おれひとりのものじゃない……
あのお方の振りまく愛嬌は……ただの貼り付けた仮面だ……
それでもあのお方にやわらかく介錯されるとき
祈ることを止められなくなる この、狐野郎
お前が……おれ以外に、優しくなけりゃあいいのに……
お題「優しくしないで」 おまねむ
わたしきっと、旅の途中なのでしょう
あのお方に拾い上げて頂くまで 随分長いこと遠回りをしてしまいました 今までのすべてがもう長い夢の事のように思えます
あのお方の腕に抱かれて「きみ、今日は随分遅かったんだね」とひそやかに囁かれるとき
ああわたしもうここで死んでもいいといつもおもう
でもわたしまだ旅の途中
あのお方の糧として頂けるまで わたしまだ旅の途中
お題「旅の途中」 おまねむ
お前は見たことがあるか
窓辺から差し込む朝の日差しのように、こちらをぱちと覗き込むあの黄金の瞳を
部屋の隅に丸まり背を向けていても、つきつきと背中を突き刺すあの業火のような眼差しを
お前きっと、見たことなんかないんだろ……
お題「部屋の隅で」 おまねむ
お前はすべてを焼きつかせる太陽
「そんなに泣かないで かわいい顔が、台無しじゃないか」とおれの涙を恭しくコットンの手袋でぬぐい去るお前は
「ふふ ああ、ぐちゃぐちゃで ハンサムが台無しだよ」とたおやかに微笑むお前が
「ところで きみの名前は なんて言うのだっけ」と小首を傾げてこちらを見あげるお前こそ
お前がおれの世界に帳を下ろした悪魔のくせに……
おれのみちを照らす太陽なのも、あなたなのだ……
お題「泣かないで」 おまねむ
帳の降りた薄暗い箱の中で、あのお方の黄金の瞳が、燃ゆるロウソクの火に当てられていっとう眩しくきらと瞬いた
「もう、お前は、いいです。全く期待外れの退屈な時間でした」と失望の言葉とは裏腹にあのお方はたおやかに微笑んでそう言った
とん……と手袋に包まれた細い指がおれの胸をつつく
おれのたましいだ おれのたましいがふわとおれの胸の上に浮き上がって「まだ終わらせないで」と泣いている
あのお方はおれの哀れなしわくちゃの魂を見てやはり、たおやかに微笑んだ……
「なんだ、お前……魂までつまらないですね」……と
お題「終わらせないで」 おまねむ