あのお方の胸ポケットから滑り落ちたボールペンを、「いらないから、あげる」と気まぐれにくれたボールペンを、あのお方にとっては処理する手間がはぶけた…というくらいの感覚だろうただのボールペンを…
おれ今日もそっと握りしめて生きている…
聖書のように、こころの隙間に軛のように刺しこんで
あのお方のたおやかな笑みを思い出す
誰にも渡すものか
これは、おれだけの、あのお方からこぼれ落ちた欠片であるからだ
おれだけの…宝物…だからだ…
お題「宝物」 おまねむ
あのお方がぎゅうとおれの右手を両手で包み込み「きみの手はあたたかいね」とたおやかに微笑むのを思い出す……
氷のようなあのお方の手 同じ人の子であるはずなのに、全く血の通っているとは思えない冷たい手……
冬になるとあのお方の手はよりいっそうに冷たく、真冬の冷気で冷やされた鉛のようになる……
灰のように降り積る雪の日に、あのお方が動かなくなった肉をつつきながら「わたしの手、死んだ人よりも冷たいかも」と笑うのが、とっても愛らしいと、なあお前もそう思うだろう?
お題「冬になったら」 おまねむ
夜景を見つめるおれの背後にあの方が立っている ガラス越しにあのお方の顔が良く見える 端正な、きれいな、かお……
それをウットリ見つめていると、あのお方はおれの手に自らの手を重ねて、耳元でささやいた……
「まぬけづら」、と……
お題「夜景」 おまねむ
あなたの特別はおれだけだと思っていた。「ねえねえ」と少女のような可憐な声で語りかけるのも、屈託の無い笑顔を向けられるのも、「ひみつだよ」とおれに囁く秘め事も、ぜんぶおれだけだと思っていたのに。
誰よりもずっとあなたの特別だと思っていたのに。
でも、あるとき、きづいた……。そんなわけがないだろう。
おれだけ……おれだけが? そんな訳が、なかった……。
誰よりもずっとおろかなのは、おれだった。
お題「誰よりも、ずっと」 おまねむ
あのお方がもたらす結末に、ハッピーエンド以外はありえない。
なぜなら世界の中心を辿ってみるとそこにいるのはあのお方であるから。あのお方が「面白い」と言えばそれはハッピーエンドなのだとされるから。おれが苦痛にのたうちまわっていても、あのお方が笑えばそれは幸せとされるのだ。
だがたしかに……あのお方の屈託のない笑顔を見るのは幸せだ……。
お題「ハッピーエンド」 おまねむ