君と見た虹
「...眩しいな」
隣に立つ君は、そうだね、と空を見ながら言った。
何に対して言ったのかは自分でもよく分からなかった。
ただ、目の前にひろがる虹は綺麗に輝いていた──
あなたは誰
「あんた、誰だっけ?」
一世一代の告白は、不発に終わった。
誰、だって?
おいおい、クラスも委員会も同じだろーがよ。
なんてわざとぶっきらぼうな言い方で頭の中で文句を言うが、実際は涙をこらえるので精一杯。
「じゃあ、俺行くから」
仲良くなれたと思ってたのは、自分だけだったみたい。
私は、あの人のまわりのその他大勢にすぎず、あの人の視界に入ってなかったんだ。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう。
─────
「あんなやつ、いたっけ?」
クラスのざわざわする声が聞こえる。
いいや、聞こえない。気にしない。私は私だ。
1人の男子生徒が私に近づいてきた。
「あれぇ、イメチェン?可愛くなってんじゃん。今なら俺のグループきていいよ?」
かかったな。今更ながらなんでこんなやつに私は引っかかったんだろうか...。私の好きだったあの人は、もういない。私は、こんな人知らない。私はできるだけ嫌味ったらしく、言ってやった。
「───あなた、誰?」
輝き
その人は、画面越しでもわかるくらい輝いていた。
はじめは目立つなあとか才能あるんだなあとしか思っていなかった。自分とは違う世界で生きている人だと。
でも、いつしかその人を追うようになっていた。その人を知ってしまった。努力を、挫折を、勇気を。
憧れるってこういうことなんだな、と初めてわかった。
遠くにいるとわかっているのに、手を伸ばさずにはいられない。少しでも近づきたいと思ってやまない。
あの人なら……
自然と善い行いをするようになった。嫌いな勉強もやるようになった。何でも一生懸命取り組もうと思うようになった。あの人のファンとして、恥ずかしくない人になりたいと思うようになった。
「最近、なんだか生き生きしてるね?」
そうだね。いつの間にか、あの人の輝きにあてられて光りはじめたみたい。
私の中にも...生まれたんだ。輝きが。
時間よ止まれ
時間が止まればいいなんて、本当にそうかな?
でも、もし──止まってほしいと切実に願っている過去の自分がいたら、迎えに行ってあげたい。
こんなに楽しい未来が待ってるのに止まってていいの?
時間が止まれば、その先の未来が捨てられるのと同じ。
時間が進んでしまうのを恐れなくていいよ。
私達には進んでいく時間を、未来を楽しむ才能がある。
限られた時間の中で生きていると、取り戻せない失敗をすることもある。迎えたくない未来を知ってしまうこともある。怖くて立ちすくむこともある。それを許して貰えない理不尽にも会う。
でも、最高の瞬間が更新されていくこともある。
止まるなんて、もったいないよ。
今この瞬間だって変わっていく自分をもっと楽しもう。
時間よ、止まってくれるな。
私達をさらなる未来へ連れて行ってくれ───
君の声がする
時間はかかったが、これで全てが解決する。
別行動していた東吾と連絡がつかなくなって1週間。おそらく東吾のいたグループは全滅だろう。
私たちだけでもこれをあのお方に届けなければ...。
焦る気持ちがあったのもあり、背後に敵が近づいていたことに気づくのが遅れた。ばっと振り向くと後ろには奴がいる。
奇妙な仮面をし、真っ黒な服装で闇に溶け込んでいる。ついに気づかれてしまったか。逃げようとしたとき、不意に風が吹き、奴の仮面がとれかけた。ふと隙間から見えたあの顔に、私は見覚えがあった。嘘だ、とか有り得ないと脳内で繰り返す。だが、確かめずにはいられなかった。
「───⋯ねぇ、大和じゃない...よね?」
答えるわけない。答えてほしくない。
しかし、私の思惑に反して奴は、言った。
「そうだよ」
私が聞き間違うはずがない。
奴の声は、連絡がつかなくなった東吾と一緒に行動していたはずの君の声だった。
信じたくなかったが、そういうことなのだろう。
奴らは洗脳し、自らの手駒を増やす。大和は、すでに洗脳済みだったのだ。
あの方の言う通りだった。
「……あんただったわけね。東吾たちはどうしたの」
「すぐにわかるよ」
急に強い痛みが走る。大和が投げたナイフが刺さったのだ。
同じ声なのに、大和の声じゃないようだった。
そうか、もう君は……。
意識が飛びそうになった時、聞こえた気がした。
たすけて、と君の声が────
洗脳を戻す方法はまだない。しかし、あの方ならそれを解決できるかもしれないのだ。私たちの集めたあれを使って。涙がこぼれそうになる。ぐっと意識が遠くなるのをこらえ、かつての仲間を見る。
仲間を殺したならこいつは処分しなければならない。
それが、本人の意思に反したことであったとしても。
あと少し早ければ……悔しく思うが時は戻せない。
仲間にこれは使いたくなかったが、これ以上好き勝手させる訳にはいかない。
「大丈夫。一緒にいこう」
巨大な爆発を生むこれは私も生きてはいられないだろう。ありがとうと、今度こそ本当の君の声が聞こえた気がした。あとは皆に託そう───