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2/9/2025, 1:19:23 AM

『遠く……』

青い空。星まではどのくらいの距離があるんだろう?
ふと手を伸ばしてみる。なにかを掴めるはずもなく、ふっと笑って手を降ろした。

諦めそうな時、私は上を向く。
遠い遠い空の上で、星になったみんなが見守ってくれているような気がするから。
まだやれる。負けたくない。

見ていてください、遠い空の上から。

2/7/2025, 2:45:13 PM

『誰も知らない秘密』


「ねぇ、種をまいたら木が生えてくるかな?」
りんごを頬張りながら少女は言った。少女の純粋な質問を聞いて、周囲の雰囲気はほっこりと和んだ。昼下がりの公園。日曜日ということもあり、多くの人が訪れていた。
「そうね。ちゃんとお世話してあげたら、生えるかもしれないわねぇ」
少女の母親らしき女が言った。
それを聞いた少女の瞳はこれ以上ないくらいに期待で輝いていたものだ。


しばらくして、少女は公園の端のほうでせっせと作業をしているようだった。小さなスコップが傍らに置いてあるのを見る限り、先程言っていたように種を植えたのではないかと思われた。
「何を植えたの?」
母親がきいた。
「それはねえ、うふふ、内緒!」
少女は溢れんばかりの笑顔で答える。子どもの想像力とは豊かなもので、いずれ生える理想の木を思い描いているのだろう。満足したのか親子は帰っていった。

大方植えたのはりんごの種だろうと見守っていた誰もが思っただろう。しかし、少女が食べていたりんごはうさぎの形に切られていた。つまり、種は取られていたはずである。少女は何の種を植えたのか?
それは、誰も知らない。何が生えてくるかは当人である少女ですら分からないのだ。

────土の下では少女の埋めた秘密が、未知なる未来を待っていた。


2/6/2025, 11:48:58 PM

『静かな夜明け』

───ねぇほら、綺麗でしょう?

いつも騒がしい彼女が愛したのは、意外なことにも静かな夜明けだった。光が溢れてくる様子が好きなのだと。それをきいて、わかる気がした。

わたしにとっては彼女こそが夜明けそのものだったからだ。
孤独な闇の中にいたわたしを明るく照らして、あたたかな光のもとへ連れていってくれた。

彼女はもういない。
代わりに、今日から彼女の弟がわたしのご主人になる。
虚ろな瞳には何も映されていない。よく知っている瞳だった。彼は今闇の中にいるのだとすぐにわかった。

───暗闇は怖いわ。でも、暗闇を知っていなければ光の大切さはわからないでしょう?貴方は私の光よ。だからそう名付けたのよ、ひかり。

彼女は暗闇の怖さを知っていた。同時に闇があるから光が生まれることも理解していた。

目の前の彼は光が見えていないだけだ。ならば、わたしが照らせばいい。彼女がわたしを光だと言ってくれたように、彼にとっての光になろう。彼女ならきっとそうするから。

ぽんと彼の顔に肉球をあてる。

「わたしは、ひかり」

伝わらないかもしれない。それでもいい。
彼の夜明けはまだこれからだ。

2/5/2025, 1:16:48 PM

heart to heart



その瞬間、じんわりと体の奥が暖かくなるのを感じた。不思議な感覚だが、嫌な感じはしない。むしろ心地よい気持ちだった。そこでようやく気づいた。

ああ、心はここに…私の中にもあったんだ───

胸の前で結んだ手に自然と力が入る。じいんと残る余韻を感じながら、今こそ、恩を返す時だと決心していた。

2/5/2025, 9:45:56 AM

永遠の花束


るいはその日、薬草をつんでいた。空から何か降ってくるのが見えて、目をこらす。人型をしていると気づいた瞬間るいは師匠のもとへ走った。
「…っ!師匠!」
「るい、慌てるな。わかっている」
そう言うと白髪の老婆は手で印を結んだ。ぶわっと蒼い風が吹き抜け、落ちてくるなにかをつつみこんだ。
ゆっくりと降りてきた風が運んできたのは…角の生えた少年だった。
「う…」
ゆっくりと少年が目を開ける。その瞳は青空を映したように青く、奥に雷の光が見えた。
「大丈夫ですか?」
「な、なんだおまえら…!」
少年は警戒し、さっと起き上がった。
「ふむ、どうやら雷の子が落ちてきたようだね」
「雷の子?」
「空の上には天気を操る鬼がいると聞いたことはあるだろう。雷の子は雷から生まれ、雷を操る力を持つ鬼のことさ」
「……」
「何があったかは知らないが、自力で戻れぬようだし、しばらくはうちにおいでなさい。るい、案内をしておやり」
「はい!これから家に戻ります。わたしに付いてきてください」
るいが話しかけると顔を背けながら少年はゆっくりと口を開いた。
「…人間の世話になんか、ならない」
瞳の奥にはパチパチと先程見た時よりも激しい雷が光っていた。
「どうしてですか?」
「……欲深い人間なんかと過ごしたら力が弱まるからだ」
「神聖な力は清き魂だからこそ使えるもの、ですよね。だからこそ、ここ以外に行くほうが危険かと思います」
「はあ?何を言っている?おまえ」
るいは背筋を伸ばし、真っ直ぐに少年を見据えて言った。
「わたし達は、仙人です」

「…仙人?」
戸惑う少年に老婆が説明する。
「仙人とは清き魂を持つと認められた者を指す言葉だ。この山は特別な山でね、清き魂でないと息もできないんだよ。ここに住んでいる仙人は私とるいだけだ。この山のことは熟知しているし、闇雲にどこか行くよりかいくぶん安全だろう」
「……わかった、よろしく頼む」
警戒心は解けてないようだが、思いのほか素直に頷いた少年は、老婆とるいの後ろについていき、しばらく一緒に過ごすことになった。その少年には名前が無かったので、るいと老婆はその少年のことをらいと呼ぶことにした。

この山はいつも晴れている。るいは大きな岩の上に立ち、自分の中の''気''を溜めて力を使う練習をしていた。
「なあおまえ」
「るいです。名前で呼んでください。なんですか?」
「あのばあさん、何者だよ」
「…師匠のことはわたしもよくわからないんです。ただ…仙人というのは元々の素質に左右されるものなんです。人には生まれながらに''気''が存在します。仙人はそれを溜めて神力と呼ばれる力に変換し使うのですが、師匠の力は別格です。あまり失礼を重ねるとお仕置きされますよ」
「ほう。たしかにあのばあさんのまとう雰囲気は普通じゃない。…お仕置きってなにされるんだ?」
「……恐ろしいですよ」
「…」
その日かららいも老婆のことを師匠と呼ぶようになった。


らいが来てから数週間が経った。るいとらいは親しくなり、今では外でお喋りをするのが日課となっていた。
ある日、らいは疑問に思っていたことをるいに訊いた。
「るい。おれはここに来てから一度も花を見ていないんだが、ここでは花は咲かないのか?」
「はな?鼻ならここにあるじゃないですか」
るいは自分の鼻を指してみせた。らいは冗談を言っているのかと思ったが、るいは冗談を言うような子ではなく、今も真剣に話している様子だ。違和感を覚えながらもるいが話しかけるので次の話題にうつってしまった。
家に入ると老婆は

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