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『静かな夜明け』

───ねぇほら、綺麗でしょう?

いつも騒がしい彼女が愛したのは、意外なことにも静かな夜明けだった。光が溢れてくる様子が好きなのだと。それをきいて、わかる気がした。

わたしにとっては彼女こそが夜明けそのものだったからだ。
孤独な闇の中にいたわたしを明るく照らして、あたたかな光のもとへ連れていってくれた。

彼女はもういない。
代わりに、今日から彼女の弟がわたしのご主人になる。
虚ろな瞳には何も映されていない。よく知っている瞳だった。彼は今闇の中にいるのだとすぐにわかった。

───暗闇は怖いわ。でも、暗闇を知っていなければ光の大切さはわからないでしょう?貴方は私の光よ。だからそう名付けたのよ、ひかり。

彼女は暗闇の怖さを知っていた。同時に闇があるから光が生まれることも理解していた。

目の前の彼は光が見えていないだけだ。ならば、わたしが照らせばいい。彼女がわたしを光だと言ってくれたように、彼にとっての光になろう。彼女ならきっとそうするから。

ぽんと彼の顔に肉球をあてる。

「わたしは、ひかり」

伝わらないかもしれない。それでもいい。
彼の夜明けはまだこれからだ。

2/6/2025, 11:48:58 PM