永遠の花束
るいはその日、薬草をつんでいた。空から何か降ってくるのが見えて、目をこらす。人型をしていると気づいた瞬間るいは師匠のもとへ走った。
「…っ!師匠!」
「るい、慌てるな。わかっている」
そう言うと白髪の老婆は手で印を結んだ。ぶわっと蒼い風が吹き抜け、落ちてくるなにかをつつみこんだ。
ゆっくりと降りてきた風が運んできたのは…角の生えた少年だった。
「う…」
ゆっくりと少年が目を開ける。その瞳は青空を映したように青く、奥に雷の光が見えた。
「大丈夫ですか?」
「な、なんだおまえら…!」
少年は警戒し、さっと起き上がった。
「ふむ、どうやら雷の子が落ちてきたようだね」
「雷の子?」
「空の上には天気を操る鬼がいると聞いたことはあるだろう。雷の子は雷から生まれ、雷を操る力を持つ鬼のことさ」
「……」
「何があったかは知らないが、自力で戻れぬようだし、しばらくはうちにおいでなさい。るい、案内をしておやり」
「はい!これから家に戻ります。わたしに付いてきてください」
るいが話しかけると顔を背けながら少年はゆっくりと口を開いた。
「…人間の世話になんか、ならない」
瞳の奥にはパチパチと先程見た時よりも激しい雷が光っていた。
「どうしてですか?」
「……欲深い人間なんかと過ごしたら力が弱まるからだ」
「神聖な力は清き魂だからこそ使えるもの、ですよね。だからこそ、ここ以外に行くほうが危険かと思います」
「はあ?何を言っている?おまえ」
るいは背筋を伸ばし、真っ直ぐに少年を見据えて言った。
「わたし達は、仙人です」
「…仙人?」
戸惑う少年に老婆が説明する。
「仙人とは清き魂を持つと認められた者を指す言葉だ。この山は特別な山でね、清き魂でないと息もできないんだよ。ここに住んでいる仙人は私とるいだけだ。この山のことは熟知しているし、闇雲にどこか行くよりかいくぶん安全だろう」
「……わかった、よろしく頼む」
警戒心は解けてないようだが、思いのほか素直に頷いた少年は、老婆とるいの後ろについていき、しばらく一緒に過ごすことになった。その少年には名前が無かったので、るいと老婆はその少年のことをらいと呼ぶことにした。
この山はいつも晴れている。るいは大きな岩の上に立ち、自分の中の''気''を溜めて力を使う練習をしていた。
「なあおまえ」
「るいです。名前で呼んでください。なんですか?」
「あのばあさん、何者だよ」
「…師匠のことはわたしもよくわからないんです。ただ…仙人というのは元々の素質に左右されるものなんです。人には生まれながらに''気''が存在します。仙人はそれを溜めて神力と呼ばれる力に変換し使うのですが、師匠の力は別格です。あまり失礼を重ねるとお仕置きされますよ」
「ほう。たしかにあのばあさんのまとう雰囲気は普通じゃない。…お仕置きってなにされるんだ?」
「……恐ろしいですよ」
「…」
その日かららいも老婆のことを師匠と呼ぶようになった。
らいが来てから数週間が経った。るいとらいは親しくなり、今では外でお喋りをするのが日課となっていた。
ある日、らいは疑問に思っていたことをるいに訊いた。
「るい。おれはここに来てから一度も花を見ていないんだが、ここでは花は咲かないのか?」
「はな?鼻ならここにあるじゃないですか」
るいは自分の鼻を指してみせた。らいは冗談を言っているのかと思ったが、るいは冗談を言うような子ではなく、今も真剣に話している様子だ。違和感を覚えながらもるいが話しかけるので次の話題にうつってしまった。
家に入ると老婆は
2/5/2025, 9:45:56 AM