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『誰も知らない秘密』


「ねぇ、種をまいたら木が生えてくるかな?」
りんごを頬張りながら少女は言った。少女の純粋な質問を聞いて、周囲の雰囲気はほっこりと和んだ。昼下がりの公園。日曜日ということもあり、多くの人が訪れていた。
「そうね。ちゃんとお世話してあげたら、生えるかもしれないわねぇ」
少女の母親らしき女が言った。
それを聞いた少女の瞳はこれ以上ないくらいに期待で輝いていたものだ。


しばらくして、少女は公園の端のほうでせっせと作業をしているようだった。小さなスコップが傍らに置いてあるのを見る限り、先程言っていたように種を植えたのではないかと思われた。
「何を植えたの?」
母親がきいた。
「それはねえ、うふふ、内緒!」
少女は溢れんばかりの笑顔で答える。子どもの想像力とは豊かなもので、いずれ生える理想の木を思い描いているのだろう。満足したのか親子は帰っていった。

大方植えたのはりんごの種だろうと見守っていた誰もが思っただろう。しかし、少女が食べていたりんごはうさぎの形に切られていた。つまり、種は取られていたはずである。少女は何の種を植えたのか?
それは、誰も知らない。何が生えてくるかは当人である少女ですら分からないのだ。

────土の下では少女の埋めた秘密が、未知なる未来を待っていた。


2/7/2025, 2:45:13 PM