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3/26/2023, 3:40:31 PM

「ぼく、あれがほしい!」

僕が何かを願う度それは必ず叶う。弟が欲しいと言えば弟が出来、ピアノをならいたいと言えば習わせてくれた。他にも何か言ったら必ず全てのものが手に入った。



「優希くん。私と付き合ってください。」
「ごめんね。俺今はそういうの…ちょっと…」

「優希〜今月入って何人目だよ〜笑」
「8人目…毎回同じこと言ってるんだけどなぁ…」
「お前のその煮え切らない態度と容姿が問題だろ」
「その話も8回目」

俺は何故かモテる。周りからはイケメンだとか紳士的だとか言われるが、自分では一切そんなことを思っていないから何が何だか…

ほとんどの女子が俺に媚びを売ったりしている中ただ1人だけ全く見向きもしない人がいる。隣のクラスの田代さん。話したこともないし、どんな人なのかは知らないが噂によれば一切人と話さないという。

「あっ、田代さん。」

重そうな教科書の山を持つ田代さん。

「それ重いでしょ。俺が持つよ。」
「鈴木くん…であってるよね?クラス違うし、いいよ…」
「いやいや、クラスとか関係なしに女子が1人でこんな重いもの持つのは大変じゃん」

ヒョイっと教科書の山を持ち上げて、並んで歩きだす。

「ありがとう。私の名前も覚えててくれてるし。」
「当たり前じゃん!同級生だし笑」

噂とは裏腹に品がある淑やかな人だった。

「じゃぁ、またね!田代さん!」
「うん、またね。鈴木くん」
「あ〜俺のこと優希でいいよ〜じゃっ」

田代さんの返事を聞く前に走り出す。
(今の俺顔赤くないか?ヤバいめっちゃ可愛い田代さんは天使なのか?女神か?)
今まで感じたことの無い感情。

''これが俺の初恋の始まり''

あの日を境に何かある事に田代ちゃんに話しかけるようになった。

「優希さ、最近田代さんと仲良いよね。接点あったっけ?」
「この間重い荷物もった田代ちゃんに会ってさ、成り行きで荷物もって色々話して…そっから話すようになった」
「いや、いつの間に…ちゃん呼びだし…てかまたそうやって女の子垂らして…田代さんもコイツの毒牙にかかったか」
「酷い言いようだな。でも、ほんとにかかっててくれたらいいのに…」
「え…今の言葉まじ?お前…田代さんのこと…」
「ん?なんの事?」
「くそっ、やっぱコイツ性格悪っ」

もし本当に田代ちゃんが俺の事を好きになってくれてたらいいのに。

「田代ちゃん、好きな人とか居ないの?」
「いっ、いきなりなんですかっ!」
「女の子って恋バナ?好きじゃん。だから何となく」
「まぁ、嫌いじゃないですけど…いるには…いますよ?」
「どんな人?」
「……私が困ってたらすぐに助けに来てくれて、でもちょっぴり怖がりで、将来は華ちゃんと結婚するって言ってくれた人」
「その人同じ学校の人?」
「ううん。去年、病気で……」
「そっか…辛い話聞いちゃってごめんね…」
「ぜんぜん!会えないのは辛いけど、今でも好きなのは変わらないから」

なんだ、取り入る隙なんてないじゃん。心の奥の方が苦しくなる。俺にしとけば?なんてそんな言葉は出てこない。彼女の目には ''その人'' しか映っていないから。

それでも、彼女のことを諦められない。いつか俺の事を見てくれるその日まで「ないものねだり」をし続けよう。




『ないものねだり』

3/25/2023, 3:32:36 PM

「好きじゃないのに」
「またそんなこと言って〜いつもかっこいいとか言ってるくせに笑」
「いや、かっこいいと好きは別だから」
「同じようなもんでしょ笑しかも相手は先生ときた」
「もう、うるさいなぁ」


今年でようやく高校3年生になった私。1年生の時からずっと気になってる先生がいる。生物学のはる先生。別に好きとかそういうのじゃなくて、ただ純粋に尊敬している…多分。

先生はモテる。一ヶ月に一回は生徒から告白されるほどに。そんな先生のもに毎日放課後訪ねては特に用もないのに入り浸る。最初は用がないなら早く帰れと追い返されていたものの、今は何も言われない。それもここにいれるのは私だけ、他の生徒はすぐに返される。

そんな思わせぶりな態度が気持ちを揺るがす。先生を困らせたくない、それに叶うはずがない。頭では分かっているはずなのに、どこか期待してしまう。

「るりはほんと飽きずに毎日来るよな〜お前彼氏とか居ないの?笑」

こういう私のことだけを名前で呼んでくるとこ、やめて欲しい。

「いるわけないじゃん笑いたら毎日こんなとこ来ないって笑」
「ははっ、それもそうよな笑でもさ、さすがに好きな人の1人や2人くらいいるだろ?笑」
「いや、2人もいたらダメでしょ!笑」
「で、そこんとこどうなのよ?」
「ん〜、秘密?笑」
「なんでだよ〜笑」

言えるわけない、先生のことが…


言って欲しかった。俺のことが好きだって。
「好きじゃないのに…か。脈ナシね〜」

まぁ、生徒に手出したなんてバレたらタダじゃ済まないんだけどさぁ。嘘でも良いから好きって言ってくれないかな。



『好きじゃないのに』

3/24/2023, 3:00:12 PM

――本日の天気は晴れところにより雨

いつもと何ら変わりないニュース番組。
「風強くないし折りたたみにしてこうかな」
ボソッと独り言をつぶやく。誰もいない家に
「行ってきます。」
と一言、これが私の毎日の朝。

1番窓側の1番後ろの席。ここが私の固定席。周りのみんなは仲良しグループで固まってるけど、私にはそんなに仲良い人なんていないし一人でいる方が好き。
なのに前の席に座ってる奴はいつも
「おはよ!」
懲りずに声をかけてくる。いつも通り何も返さずに目線を窓の外へ向ける。

「みんな席に着けー今日は5分短縮授業になったから時間確認しとけよー。」
クラス中で黄色い歓声が沸きあがる。私にとっては帰る時間が少し早くなるだけで何ら変わらない一日。

休み時間は教室で本を読み、昼休みだけはいつも図書室に行く。誰もこない静かな、私だけの空間…だと思ってた。
「あっ、こんなとこにいたんだ!」
前の席にいつも座ってる男の子。なんで場所がバレたのかも、なぜここに来たのかも検討はつかないが特に何も聞かなかった。
「いや〜いつも昼休みだけ姿見えなくなるからどこにいるのかと思ってたよ笑いつもここにいるの?」
返事が返ってくる訳でもないのにずっと話しかけてくる。ホント懲りないやつ。
「暇人なの?」
つい本音が出てしまう。咄嗟に否定しようとも思ったが、
「え?今喋ったよね?返事してくれたよね!?」
その必要も無さそうだ。私の心配とは裏腹に喜んでいる姿を見てなんとも言えない気持ちになる。
その後も話しかけてくるがひとつも反応せず昼休みが終わる。

午後の授業は自習だったがさっきの続きの話をずっとしている。私も相変わらず返事する気になんてならないけど、作業BGMの感覚で話に耳を傾ける。話の内容が面白くてつい笑いそうになるのを堪えながら淡々と課題をこなしていく。
「てか、俺ここわかんねぇんだけど。教えてくれね?」
いや知らんし、散々話しといてやってなかったんじゃん。思っても声には出なかった。
「いいよ。」
この一言だけでふわっと笑う君。そういうところが嫌いだ。みんなが騒いで話に夢中になっている中教室の端で2人だけの空間が出来上がってく。いつもなら自分から避けているはずなのに今は不思議と居心地が良い。この時間がずっと続けばいいのに、そんなことを思うほどには。

「今日は朝から雨予報がでてたが、今は風も強いからみんな気をつけて帰れよー」
折り畳み傘しか持ってないのに、この風の強さじゃ折れちゃうな。為す術なく玄関で立ちつくしていると、
「あれ?今日傘忘れちゃった感じ?」
声をかけてくる。
「あるけど、折りたたみ傘しかない。」
「じゃぁさ、一緒に帰ろ?どうせ帰る方向一緒だし」
でもそれって相合傘でってこと?なんて聞ける訳もなく小さく頷く。

雨の音も風の音も小さく聞こえる。ドクンドクンと心音が大きくなる。こんな時間が続けばいいのに。今はそれだけでいい。

――今は



『ところにより雨』