――本日の天気は晴れところにより雨
いつもと何ら変わりないニュース番組。
「風強くないし折りたたみにしてこうかな」
ボソッと独り言をつぶやく。誰もいない家に
「行ってきます。」
と一言、これが私の毎日の朝。
1番窓側の1番後ろの席。ここが私の固定席。周りのみんなは仲良しグループで固まってるけど、私にはそんなに仲良い人なんていないし一人でいる方が好き。
なのに前の席に座ってる奴はいつも
「おはよ!」
懲りずに声をかけてくる。いつも通り何も返さずに目線を窓の外へ向ける。
「みんな席に着けー今日は5分短縮授業になったから時間確認しとけよー。」
クラス中で黄色い歓声が沸きあがる。私にとっては帰る時間が少し早くなるだけで何ら変わらない一日。
休み時間は教室で本を読み、昼休みだけはいつも図書室に行く。誰もこない静かな、私だけの空間…だと思ってた。
「あっ、こんなとこにいたんだ!」
前の席にいつも座ってる男の子。なんで場所がバレたのかも、なぜここに来たのかも検討はつかないが特に何も聞かなかった。
「いや〜いつも昼休みだけ姿見えなくなるからどこにいるのかと思ってたよ笑いつもここにいるの?」
返事が返ってくる訳でもないのにずっと話しかけてくる。ホント懲りないやつ。
「暇人なの?」
つい本音が出てしまう。咄嗟に否定しようとも思ったが、
「え?今喋ったよね?返事してくれたよね!?」
その必要も無さそうだ。私の心配とは裏腹に喜んでいる姿を見てなんとも言えない気持ちになる。
その後も話しかけてくるがひとつも反応せず昼休みが終わる。
午後の授業は自習だったがさっきの続きの話をずっとしている。私も相変わらず返事する気になんてならないけど、作業BGMの感覚で話に耳を傾ける。話の内容が面白くてつい笑いそうになるのを堪えながら淡々と課題をこなしていく。
「てか、俺ここわかんねぇんだけど。教えてくれね?」
いや知らんし、散々話しといてやってなかったんじゃん。思っても声には出なかった。
「いいよ。」
この一言だけでふわっと笑う君。そういうところが嫌いだ。みんなが騒いで話に夢中になっている中教室の端で2人だけの空間が出来上がってく。いつもなら自分から避けているはずなのに今は不思議と居心地が良い。この時間がずっと続けばいいのに、そんなことを思うほどには。
「今日は朝から雨予報がでてたが、今は風も強いからみんな気をつけて帰れよー」
折り畳み傘しか持ってないのに、この風の強さじゃ折れちゃうな。為す術なく玄関で立ちつくしていると、
「あれ?今日傘忘れちゃった感じ?」
声をかけてくる。
「あるけど、折りたたみ傘しかない。」
「じゃぁさ、一緒に帰ろ?どうせ帰る方向一緒だし」
でもそれって相合傘でってこと?なんて聞ける訳もなく小さく頷く。
雨の音も風の音も小さく聞こえる。ドクンドクンと心音が大きくなる。こんな時間が続けばいいのに。今はそれだけでいい。
――今は
『ところにより雨』
3/24/2023, 3:00:12 PM