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「ぼく、あれがほしい!」

僕が何かを願う度それは必ず叶う。弟が欲しいと言えば弟が出来、ピアノをならいたいと言えば習わせてくれた。他にも何か言ったら必ず全てのものが手に入った。



「優希くん。私と付き合ってください。」
「ごめんね。俺今はそういうの…ちょっと…」

「優希〜今月入って何人目だよ〜笑」
「8人目…毎回同じこと言ってるんだけどなぁ…」
「お前のその煮え切らない態度と容姿が問題だろ」
「その話も8回目」

俺は何故かモテる。周りからはイケメンだとか紳士的だとか言われるが、自分では一切そんなことを思っていないから何が何だか…

ほとんどの女子が俺に媚びを売ったりしている中ただ1人だけ全く見向きもしない人がいる。隣のクラスの田代さん。話したこともないし、どんな人なのかは知らないが噂によれば一切人と話さないという。

「あっ、田代さん。」

重そうな教科書の山を持つ田代さん。

「それ重いでしょ。俺が持つよ。」
「鈴木くん…であってるよね?クラス違うし、いいよ…」
「いやいや、クラスとか関係なしに女子が1人でこんな重いもの持つのは大変じゃん」

ヒョイっと教科書の山を持ち上げて、並んで歩きだす。

「ありがとう。私の名前も覚えててくれてるし。」
「当たり前じゃん!同級生だし笑」

噂とは裏腹に品がある淑やかな人だった。

「じゃぁ、またね!田代さん!」
「うん、またね。鈴木くん」
「あ〜俺のこと優希でいいよ〜じゃっ」

田代さんの返事を聞く前に走り出す。
(今の俺顔赤くないか?ヤバいめっちゃ可愛い田代さんは天使なのか?女神か?)
今まで感じたことの無い感情。

''これが俺の初恋の始まり''

あの日を境に何かある事に田代ちゃんに話しかけるようになった。

「優希さ、最近田代さんと仲良いよね。接点あったっけ?」
「この間重い荷物もった田代ちゃんに会ってさ、成り行きで荷物もって色々話して…そっから話すようになった」
「いや、いつの間に…ちゃん呼びだし…てかまたそうやって女の子垂らして…田代さんもコイツの毒牙にかかったか」
「酷い言いようだな。でも、ほんとにかかっててくれたらいいのに…」
「え…今の言葉まじ?お前…田代さんのこと…」
「ん?なんの事?」
「くそっ、やっぱコイツ性格悪っ」

もし本当に田代ちゃんが俺の事を好きになってくれてたらいいのに。

「田代ちゃん、好きな人とか居ないの?」
「いっ、いきなりなんですかっ!」
「女の子って恋バナ?好きじゃん。だから何となく」
「まぁ、嫌いじゃないですけど…いるには…いますよ?」
「どんな人?」
「……私が困ってたらすぐに助けに来てくれて、でもちょっぴり怖がりで、将来は華ちゃんと結婚するって言ってくれた人」
「その人同じ学校の人?」
「ううん。去年、病気で……」
「そっか…辛い話聞いちゃってごめんね…」
「ぜんぜん!会えないのは辛いけど、今でも好きなのは変わらないから」

なんだ、取り入る隙なんてないじゃん。心の奥の方が苦しくなる。俺にしとけば?なんてそんな言葉は出てこない。彼女の目には ''その人'' しか映っていないから。

それでも、彼女のことを諦められない。いつか俺の事を見てくれるその日まで「ないものねだり」をし続けよう。




『ないものねだり』

3/26/2023, 3:40:31 PM