天国と地獄
私は、やすやすと「天国」には行けないだろう
善い行いばかりしてきたと胸を張って言えないから
でも、人道に対する「罪」は犯したことはない
だから、今のところは「地獄」にも行けないだろう
辿り着くとしたら、
「天国と地獄」の間の「煉獄」という場所だろうか
今までの行いを償いきるまで浄化の炎によって焼かれ苦しむ
つまり、永遠ではないのだ
死んでからのことは、誰にも知る手がかりはない
本当に「天国」や「煉獄」や「地獄」があるのかも誰にも分からない
でも、逝くなら、今までの全てを浄化して、
リセットされて生まれ変われるのなら、その道がいい
生まれ変わることがあるのか、そこもわからないけれど
月に願いを
今宵は更待月
夜が深くなるのを 静かに待って
蒼白く光輝く 待ち焦がれし月
ただ ただ 見上げて 君を思ふ
暁月夜になるまで 願掛けのように
無事を願っていたいのに
帰ってくれるなら、一番に出迎えたいのに
この身体は言うことを聞いてはくれぬ
眩しくて 眼を開けると 聴きたい声は耳には届かず
今日も静寂の中で 一日がはじまる
また 夜更けまでが 待ち遠しい
「また明日」
今日を一区切りして
誰にもわからない「明日」へ
少しばかりの渇望を込めて
明日の、これから先の未来の私達に託す
また明日から始まると疑わない毎日
でも、その明日が来ないかもしれない
いつも大抵は社交辞令で使ってしまう言葉
これからは、もう少し大事に使おう
気持ちを込めて
……少しでも、それが叶うようにと。
愛があれば何でも出来る?
生きていく原動力には、それは大きな力になりうるかもしれないけれど、プラス面にもマイナス面にも働くだろうし、結局、「愛」があっても何かを手にするわけじゃない。
その「愛」の種類によると個人的には思う。
お互いの「愛」のパワーバランスの差があり過ぎると、
望んでいない歪な関係が生じてしまうかもしれないし、時に義務感でしか動けていないと感じてしまうかもしれない。
家族関係、親子関係、恋人関係では特に。
だから、「愛があれば何でも出来る?」
そんな、簡単な一言で聞かないで。が、今の答えかな?
風二身ヲ任セ
「オンナだから 学は要らないのよ」
「もっと花嫁修業に専念なさい」
「卒業面にはなりたくないでしょう?」
また チクりと最後に刺される
もう 痛みは然程 感じない
口角をゆっくりと上げて
「はい 母さま」
お得意の作り笑いで 感情を今日も水面下に 抑えつける
女学校で一番の成績を取っても 褒美は縁談の申し込み
女学校の卒業まで席を置いていたら、
それはそれは卒期面と揶揄される
……売れ残りのようだと
蝶よ花よとそれなりに育てられてきたが
只で箱に収まる質ではない
浴衣を縫えば ガタガタ道が出来上がる
絵を描けば 講評していた先生の口が閉口する
包丁を持てば 歪な作品が列を成す
もう 出来る努力は し尽くしましたの
諦めになって、母さま
さらりと筆を走らせ 鏡台に一筆と共に母から譲り受けたリボンを添えた
夕間暮れ 幼き頃の隠し通路を辿って 駅を目指す
行先知らぬ発車間際の汽車に 飛び乗った
普段走らないのに なんと大胆な
今宵は満月 照り輝く光に 誘われたのは必然か
夜風と共に
ただ ただ 風二身ヲ任セ
列車に委ね 乗客たちと 心地よき微睡みへ
縁側で 誰かの隣で 団子に手を伸ばして 笑い合う
温かい大きな手が 頭をそっと撫でてゆく
何処かで聴いた大声で 呼ばれた気がした
迎えに行く と
黎明がやや甘い夢路から浮世に浮上させる
ふと 嬉しさだけがこみ上げてきた
きっといい夢を見れたのだろう 朧気だけど
肌寒さに身震いしたが 包まれたい掛け布団は姿が見えぬ
景色が段々と鮮明に入ってくる
揺ら揺ら揺れて 降り立った見知らぬ地
だぁれも ワタクシのコトなんぞ
気にも留めず 家のことにも触れず 追い越してゆく
なんて 清々しい朝でしょう
この道さきで 誰かひとり
ワタクシという気儘な人間ヲ
受け止めてくださったなら
その暁には 素直に喜んで 嫁ぎますのに
そんな自由 あの夢の中 だけ……か
「もし、そこのお嬢さん!!」
周りを巻き込む背後からの大声で
動けない 背筋に緊張感が走る
さあ、
連れ戻しに来た追ってか、はたまた例の夢の彼か、
前言撤回
矢張り 風ニ身ヲ任セヨウ