かなで

Open App

風二身ヲ任セ 

 
「オンナだから 学は要らないのよ」 

「もっと花嫁修業に専念なさい」 

「卒業面にはなりたくないでしょう?」 

 
また チクりと最後に刺される 

もう 痛みは然程 感じない  
 
口角をゆっくりと上げて  

「はい 母さま」 

お得意の作り笑いで 感情を今日も水面下に 抑えつける 

 
女学校で一番の成績を取っても 褒美は縁談の申し込み 

女学校の卒業まで席を置いていたら、

それはそれは卒期面と揶揄される 

……売れ残りのようだと 


 
蝶よ花よとそれなりに育てられてきたが  

只で箱に収まる質ではない 

浴衣を縫えば ガタガタ道が出来上がる 

絵を描けば 講評していた先生の口が閉口する 

包丁を持てば 歪な作品が列を成す

 
  
もう 出来る努力は し尽くしましたの 
 
諦めになって、母さま 
 



さらりと筆を走らせ 鏡台に一筆と共に母から譲り受けたリボンを添えた

夕間暮れ 幼き頃の隠し通路を辿って 駅を目指す

行先知らぬ発車間際の汽車に 飛び乗った 

普段走らないのに なんと大胆な 
  
 
今宵は満月 照り輝く光に 誘われたのは必然か 

夜風と共に  

ただ ただ 風二身ヲ任セ

列車に委ね 乗客たちと 心地よき微睡みへ
 
 
縁側で 誰かの隣で 団子に手を伸ばして 笑い合う 

温かい大きな手が 頭をそっと撫でてゆく 
  
何処かで聴いた大声で 呼ばれた気がした 


迎えに行く と
 

 
黎明がやや甘い夢路から浮世に浮上させる  

ふと 嬉しさだけがこみ上げてきた 

きっといい夢を見れたのだろう 朧気だけど

肌寒さに身震いしたが 包まれたい掛け布団は姿が見えぬ
 
景色が段々と鮮明に入ってくる 

 

揺ら揺ら揺れて 降り立った見知らぬ地 



だぁれも ワタクシのコトなんぞ  

気にも留めず 家のことにも触れず 追い越してゆく  

 
なんて 清々しい朝でしょう 

 

この道さきで 誰かひとり  

ワタクシという気儘な人間ヲ

受け止めてくださったなら

その暁には 素直に喜んで 嫁ぎますのに  


そんな自由 あの夢の中 だけ……か 


 

「もし、そこのお嬢さん!!」  

 
周りを巻き込む背後からの大声で  

動けない 背筋に緊張感が走る 
 
 
さあ、
 

連れ戻しに来た追ってか、はたまた例の夢の彼か、 
 
 
前言撤回 


矢張り 風ニ身ヲ任セヨウ








5/14/2024, 2:35:45 PM