「見つめられると」
信号が赤に変わった。
交差点の向こう側に、見覚えのある姿が目に入った。
特徴的な外見だから、すぐに分かった。
……何故、この確率を疑わなかったのだろう。
見るわけない、分かるわけない。
なのに、
視線が交わった。
貴方に見つめられると、途端に緊張が走る。
息を呑んだ。
知りつくしている視線だった。
貴方に見つめられると、あの頃の熱が甦りそうで怖い。
今、私の表情を映し出すモノは何も無い。
どうか、どうか、浮き上がっていませんように。
貴方の視線は簡単には避けられない。
この距離の無意味さが身に染みる。
何故、無駄に視力がいいのよ。
ただ、最後に見かけれたらいいな、くらいだったのに。
信号が青に変わった。
目を逸らし、あたかも何でもないかのように人混みに紛れて、そのまま直進する。
距離が近づいてくる。
斜め前方から鋭い視線を感じる。
……別の痛すぎる視線もあえなく喰らう。
迂回せずに慣れたルートで帰ればよかったのに。
自分の微かな欲求に忠実に従ってしまった罰なのか。
貴方の香りに混じって、知りない芳醇な香水の香りが届いた。
貴方は、もう私の手の届かない位置にいるのだから、そろそろ自覚してください。
いや、わたしもか。
……見つめたって、もう無邪気な頃の私たちには戻れない。
貴方の隣りに近づくことすらも叶わない。
貴方の見つめるべき相手は、貴方のその真横に居る。
振り向くな、わたし。
今日にさよなら
何気なしに起きた朝
いつもの、ルーチンをこなす
今日までの期限がないかチェック
そろそろ冷蔵庫を伺い、中を盛るために買い出しへ
ようやくコーヒータイムかと思ったら
デスクの上は 娘からのこれみよがしなラブレターの山
赤ペンと付箋が踊り出す
人をダメにするソファに埋もれた息子
読書の世界に旅立って帰還拒否
反対側を見渡せば
あちらは宿題と称してタブレットで何やら開拓三昧
「 今日」という日も、もうじき役目を終える
何気ない日常の「今日 」に
心からの「さよなら」と
平穏に終えることが出来た「ありがとう」を
でも、願ってもいいだろうか
「明日」への「少しばかりの希望(期待)」を
待ってて
10代の頃は早く大人になりたかった
20代の頃は仕事して良い人と巡り会って結婚したかった
30代の頃は一日に僅かでも自分時間が作れるのが目標だった
40代の今は気難しい思春期に入りかけの子と日々格闘という精神的修行に入ったばかり......
まだまだ、人生の長い長いトンネルの途中
与えられる、守られる側から
与える、守る側へ自分の立ち位置が置き換わり
まだまだ、数え切れない事と遭遇していくのだろうな
良妻賢母なんて初めから目指していないけれど
最期に「貴方から産まれて良かった」と
少しでも思ってもらえる母になりたい
それまで、見守って待ってて、私のお母さん
スマイル
いつも笑顔(スマイル)でいたい
普段 心からそう願い、朝を迎えるけれど
スマイルで居られる空間が見当たらない
いつまで経ってもストーブの前から動かない
逆算して考えて行動しない
少しも慌てない
私の動きは朝からマッハなのに
今朝も私のスマイルは実現化しなかった
スマイルよりも一言、二言 口が出る
ドラマのママみたいに穏やかに「行ってらっしゃい」と
余裕のある格好で見送りたい
しかし、現実は般若の面
百人一首で坊主が連続して出した時の虚しさ
いくら あの手この手で策を練っても
早送りにはならず スローモーション
敗北感漂うリビング
私のスマイルは宝くじの確率にかなり近い
「1000年先も......」
だなんて、そんな烏滸がましいことは言えません
みな、命には限りがあります
輪廻転生というのがあれば もしかしたら
この先の 先の未来をも 許されたなら
また生を受け 何らかの形で 存在出来るかもしれない
でも、そんな確約はどこを探してもないし誰も知らない
だから 人は人と出逢い 新たな生命を産み
その先へ繋げていく
そのとき 地球環境がどのような変化を起こしているのか
1000年先の世界に果たして人類が生息しているのか
知る由もないけれど
ひとつ 願うなら 誰かの幸せを願う想い 人を救う心は
いつまでも 変わらないで あって欲しい