桜月夜

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11/5/2024, 3:58:54 AM

   : 哀愁を誘う


あなたは、ぽつりぽつりと話し始めた

殆ど話すことなどないのに
少しお酒が入ったからだろうか

私は黙って聞いていた

不意に思い詰めるように黙り込み
お酒に色づく氷を見つめる

私も自分のグラスを見つめる

どれくらいたっただろうか
意を決したように言葉を放つ

「1/4にカットされた白菜が…
  1200円もしたのよ…」

驚愕のセリフに私は
首が千切れんばかりの勢いで
彼女を見た

伏し目がちに潤む瞳が
哀愁を誘う

「それに気づいた私は思わず
  伸ばした手を引っ込めてしまった…
    ぅぅぅ…」

わなわなと震える彼女の手が
琥珀に染まるグラスに触れる

カラン…

梅酒に濡れる氷が
行き場をなくしたように彷徨う

彼女の心の中を見ているようで
私は、何も言えなかった…


                桜月夜

11/3/2024, 3:04:15 AM

   : 眠りにつく前に


眠りにつく前に
微かに声が聞こえた

あらあらこの子ったら
大好物のクッキーを持ったまま
眠っちゃったのね

優しく髪を撫でたあと
私の手からクッキーを取ろうと…

はっ、ダメ~、私のクッキー!

なんとか瞼をこじ開け
クッキーを口に運んで
モグ、モグ、モグ…

なんでだろう…
クッキー食べたいのに…
また眠くなってきた…

でも、どうしても食べ…たい…

ふふっ、また眠っちゃったのね
本当に食いしん坊さんなんだから

だいじょうぶよ
ちゃんととっておきますからね

ちょっとくすぐったいその声は
私の手からクッキーをそっと取り
大事そうに抱っこしてくれた

クッキーも好きだけど

私は、この優しい抱っこも

大好きだ


               桜月夜

11/2/2024, 4:47:06 AM

   : 永遠に


永遠に、とは言えないな…

でも、僕が生きている限り
君の傍にいたいと思っている

傍にいて、一緒に笑ったり
美味しいものを食べたり
時には喧嘩したりして
君の全てを愛したい

貴方は最期まで約束を守ってくれた

一緒になって笑ってくれて
一緒になって泣いてくれて
喧嘩をしたらとことん話し合ってくれて

生きている限り…

貴方の好きだった花を手向け
私は墓前に話し掛ける

貴方は生きている限りって言ったわよね

確かにもう、貴方の温もりに
触れることはできない

けど、貴方が旅立ってからも
ずっと感じるの

今でもずっと傍にいてくれてるって…

優しい風が、私の髪を撫でる

私は泣いたりなんかしないから…

柔らかい日射しが、体を包む

ふわりと頬が温かくなった

貴方は今も、私の傍に…


                桜月夜

10/31/2024, 4:05:17 AM

   : 懐かしく思うこと


懐かしく思うことなんて
俺には一つも見当たらない

なんでかって? それは…

俺には懐かしむ余裕なんて
露ほどにもなかったからだよ…

私が作ったおにぎりを見つめながら
彼は小さく呟いた

おにぎりが恥ずかしくないようにと
海苔ですっぽり包んだおにぎり

でも…

彼は静かに話し出した

俺がまだ小さかった頃
母さんがこうやって海苔で全部
包んだおにぎりを作ってくれたんだ

二人ともずっと働き詰めだったから
一人で留守番させるのが
きっと辛かったんだと思う

閉ざされた過去の扉を少し開けたのだろう
ぐっと涙をこらえているのがわかる

でも一人でお留守番できて
とってもえらかったね
そう私が言うと
彼は笑顔を浮かべながら
堪えきれず涙をこぼした

母さんもそう言って抱き締めてくれた
ごめんね、じゃなくてえらかったねって

胸が熱くて苦しくなった

一つ食べてもいい?

どんどん食べて!

うん、うまい、本当に、うまい…

今日という日がいつか
懐かしい思いにかわることを
私は心から願った


                桜月夜

10/30/2024, 3:57:03 AM

   : もう一つの物語


実はね、このお話しには
もう一つの物語が隠されているの

パタンと本を閉じた瞳が輝いた

君は想像力に長けている
本当にそうなんじゃないかと思うほど
毎回君の話に引き込まれてしまう

今だってそうだ
こうなったらもうとめられない

僕は君の話を聞くのが好きだ

でももっと好きなのは
コロコロ変わる表情かな

その物語の登場人物のように
何にだってなりきってしまう

だから君を見ているだけで…

僕の心の中には、豊かな未来へと
続く一つの物語がある

君の物語の登場人物に
僕の名前があればいいのだが…

至福の笑みを浮かべながら
口いっぱいにケーキを頬張る君

ドキドキとワクワクが入り雑じった瞳に
君を愛してやまない僕の顔が映っていた…


                桜月夜

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