: 懐かしく思うこと
懐かしく思うことなんて
俺には一つも見当たらない
なんでかって? それは…
俺には懐かしむ余裕なんて
露ほどにもなかったからだよ…
私が作ったおにぎりを見つめながら
彼は小さく呟いた
おにぎりが恥ずかしくないようにと
海苔ですっぽり包んだおにぎり
でも…
彼は静かに話し出した
俺がまだ小さかった頃
母さんがこうやって海苔で全部
包んだおにぎりを作ってくれたんだ
二人ともずっと働き詰めだったから
一人で留守番させるのが
きっと辛かったんだと思う
閉ざされた過去の扉を少し開けたのだろう
ぐっと涙をこらえているのがわかる
でも一人でお留守番できて
とってもえらかったね
そう私が言うと
彼は笑顔を浮かべながら
堪えきれず涙をこぼした
母さんもそう言って抱き締めてくれた
ごめんね、じゃなくてえらかったねって
胸が熱くて苦しくなった
一つ食べてもいい?
どんどん食べて!
うん、うまい、本当に、うまい…
今日という日がいつか
懐かしい思いにかわることを
私は心から願った
桜月夜
10/31/2024, 4:05:17 AM