彼と彼女のクリスマスの過ごし方はいつもと変わらない。
休みならばいつもの休日のように過ごし、仕事ならば仕事をする。
変わることのない日々。それを二人は積み重ねてきた。
クリスマスだからと言って、何か特別なことをするのではない。
ただ、デートする時はクリスマスの特別価格は避けるようにしていた。
クリスマスだけに特化したセールに二人がなびくことはなかったから。
それでも、二人の愛は育まれていき、やがては結婚することなる。
結婚したとしても、二人は変わることがない。ただ恋人同士から、夫婦に変わっただけである。
それでも二人は愛し合っている。互いに強く。誰も断つことができないぐらいに。
クリスマスだからと言って、二人には何の価値も無いのだろう。
ただ互いにデートを重ねていく。いつも通りのデートを。たまには変化をつけながら。
そして、二人の体験のアルバムを増やしていくのだろう。これからもずっと、不変の愛を貫いてーー。
イブの夜は何をして過ごしたいか。そう聞かれたら、ただいつも通り過ごすだけ。
ノートに適当なテーマで物語などを書いて、タブレットに打ち込むだけ。
いつも通りの日常。いつも通りの夜。特別な出来事なんか起こりはしない。
変わることのない日常。しかしそれはいつも通りほの固執なのかもしれない。
変化を起こすにしても、もう手遅れにしかならない。そう望まれた夜。
クリぼっちというなら言わせておこう。別にそもそも構わない。
明日のテーマはきっと、クリスマスか冬至に因んだものなのだろう。関係ないのに頭を悩ませながら。あるいは、きっぱりと割り切るか。
どちらにしても私は私なりに夜を過ごすのだーー。
プレゼントには何を贈ればいいのだろう。誰かの記念になる物を贈りたい。
自分がもらう側なら食べ物がいい。そうすれば、贈ってくれた人と一緒に楽しめるから。
彼と彼女の記念日はいつも、食べ物を贈り合っていた。祝日とか関係なく。贈りたいと思った時にプレゼントをしていた。
決まりきった祝日のプレゼントよりも、相手へのサプライズを重視していたから。
それは二人が結婚してからも同じ。個人的な祝い事の時に、プレゼントをしていた。
その時には食べ物ではなくて、装飾品も含まれていた。
ケーキ、チキン、ネクタイ、ネックレス、指輪、イヤリング、マフラー、等々。
数え上げたらキリがないくらいに。二人はプレゼントを贈り合っていた。
結婚記念日も忘れることなく、欠かすこと無く。いつまでも変わることなく。
それが二人の日常で楽しんでいた。深く強い絆で結ばれていた。
彼らが年を重ね、老いる時になったとしても、変わることなくプレゼントを贈り合っているーー。
ーー二人のプレゼントの贈り合いはこれからも続いていくのだろう。死が二人を別つまで。
特定の日ではなくありきたりな日に贈り合うのは、変わっているとしても。二人はそれを続けてきた。
これからも日付に囚われてプレゼントすることは無いだろうーー。
ゆずの香りを嗅いで想い出すのは、好きだった人の匂い。
すれ違う時にいつも、ゆずの香りがしていた。おそらくは香水なのだろう。
想いを抱くことはあっても、伝えることはできなかった。だから、懐かしいと言える。
すれ違いに挨拶をする程度の間柄だったから。それぐらいにしか接点は無かった。
だからこそ、今、ゆずの香りを嗅ぐと、想い出すのだ。叶うことの無い恋だとしても。
今も、冬になると、ゆずの香る季節になると想い出す。
忘れたい悪夢の中の良心的な恋としてーー。
ーーその恋心は叶うことの無いもの。胸に秘めたまま終わって散ってしまったもの。
忘れたい悪夢。忘れてしまえば、恋を抱いたことだけを遺して無くなってしまう。
儚い記憶の片隅に色づいたもの。それがゆず香る季節の恋なのだからーー。
澄み渡る群青の空の下では、何が行われているのか。
雄大な自然界がただ広がっている。鳥たちがただ静かに飛んでいる。
木々が広がっている。大森林を構成している。海が広がっている。何もかもがただ広がっている。
川はただ流れ、風は穏やかに吹き、魚や動物たちは楽しそうに泳ぎ、じゃれ合っている。
聳え立つ木々も、木漏れ日を生み出して木陰を作っている。
それはある一つの未来。人間がいなくなった地球。その支配者は動物たち。
戦争で荒廃した大地は、今ではもう植物たちが満ちている。汚染された海もすっかり碧さを取り戻している。
かつての凄惨な状態を知る者は誰もいない。人間はもう死に絶えてしまった。それは残酷な結末だろうか。自業自得の結果でしか無いというのに。
その結果を見て、傍観者はどう思われるのか。あるいは何も感じないのか。それは誰にも分からない。
ある意味においては、これは未来の枝分かれ。しかしそれは、ある狂人が視た幻想でしかない。幻想を綴っただけのものでしかない。
誰からも理解されること無く、ただ思考を紙に書き留めたものかもしれない。
傍観者もいない。どう感じるかなんて知ったことでしかない。共感されない哀しき狂人は自嘲をただ繰り返している。有ったらいいという未来でしか無い。
それはつまり、狂人による未来妄想という名の幻想。あるいはそれすらも閉ざされたままーー。
ーー澄み渡る群青の空はすべてのものを内包している。それは現実にあるのか。それとも幻想にあるのか。それは誰にも分からないーー。