それは見ていた。遙か遠くから眼下を見下ろすように。
それを見る者は恐れを抱くだろう。自分が次の獲物にされる恐怖を感じて。
それはチャンスを逃さない。チャンスが訪れるまで鋭く見張りゆく。
それは突然に急降下する。そして、水面へと潜りゆく。
それは勢いのまま、水上へと駆け戻る。嘴に獲物を咥えて。
それは何事も無かったかのように悠然と翼を広げる。王者のように。
それは鋭い眼差しで獲物を狩る。蒼空の狩人。
それはすなわち、ワシ。彼らに目を付けられて、逃れられる者はいるだろうか。
否、誰もいないだろう。恐怖で身体が硬直してしまうのだからーー。
高く高く飛んでいけ。どこまでも飛んでいけ。この蒼空を、夕空を、夜空を、飛んでいけ。
高く高く飛んでいけ。果てしなく飛んでいけ。世界の果てまでも。
鳥たちよ。飛んでいけ。虫たちよ。羽ばたいていけ。遠い遠い大地へと。
高く高く。舞っていけ。花吹雪よ、舞い散らせ。大地を花で染めていけ。
高く高く。飛んでいけ。天空へと貫いて。雲を突き破れ。
花びらよ。舞っていけ。大風よ、吹き散らせ。矢を放ち貫き破れ。
高く高く。奏でて。海原を渡ってけ。
高く高く。吹き散らせ。風に乗せるために。
旋律よ。響かせて。心に刻め。
子供のように無邪気に笑う君が好きだ。愛おしいとすら想っている。
胸に抱いて、抱きしめたいとすら想うほどに。
だが、それは叶わない。叶うことができない願いだ。画面越しでしか君に会うことはできないのだから。
しかし、私は決して諦めない。この手で君と触れ合うためにーー
ーー彼は画面越しの彼女、AIが生成した女性に恋愛感情を抱いてしまっていた。
現実世界には、彼が愛せる人や生き物は残念ながらいなかった。
彼が目に点けたのはVR技術。仮想空間によってAIの彼女を創り上げること。そのことだけを目標にしていた。
それから数年の時が経ち、彼が目指した夢は現実になりつつなったのであるーー。
放課後の教室というのは、ざわめきから始まり、徐々に静まり返っていく。
学びの時を終えた学生たちの自由な時間として。
友人との他愛のない会話。部活への移動。バイト先への直行。家への帰宅。
それらの時を経て、放課後の教室は静まっていく。いつもと変わることなく。
夜になれば夜間の見回りが来て、異変が無いかチェックし、去っていく。
長い長い夜を経て朝となり、生徒や先生たちが来て、授業をし、ホームルームを経て、放課後が訪れる。その繰り返し。
休日も教室に訪れる者はいない。平日にならなければ、誰も来ない。
休日の教室とは、永遠の放課後とも言えるかもしれない。人が来るまでは何も起きないのだからーー。
ーー観測者は語る。
「永遠の放課後は何度も繰り返されている。校舎がある限り。
人が誰もいなくなり廃校になったとしても、永遠の放課後はそれに気づかない。
いや、気づけないのかもしれないし、気づいているとしても、ただ繰り返してゆくのだろう。
それは、ただそうなるように存在しているのだからーー」
その部屋を一言で表すとしたら、黒一色だろう。
ベットやカーペット、テーブルやイスまで、ありとあらゆる家具が黒で統一されている。もちろん、カーテンも。
遮光カーテンはさすがに白色だったが、それ以外は何もかも黒色だった。
このような部屋に住んでいるのはどのような人物なのだろうか。
黒い部屋というのはどこか重厚感を与えるもの。重厚な感じの人が使うのだろうか。
例えば、どこかの組織の長、ボス的な立場の人物とかが思い浮かぶ。
あるいは、どこかのアジトの一室とか。別荘だったりするのかもしれない。
または現実と隣合わせの異世界という可能性もある。鏡の中の真っ暗な一室とか。
カーテン一つで様々な想像をすることができるものだ。そこで、あなたに問わせてもらおう。
あなたが今いる部屋は何色の部屋かな。そして、誰が使っていると思う。
人間が使っているのか。異世界のバケモノが使っているのか。はたまた、神と呼ばれている存在が戯れに作ったのか。
あなたがどんな答えを導き出すのか。それはあなたが決めることではないのかねーー?