私だけ
私の視線の先に、あなたを映す。
そんなあなたの視線の先はいつも違う女の子で、どうして、その中に私は入らないのだろうかと日々考える。
顔?身体?あなたは何を考えてその子たちを見ているの?モヤモヤする心を抱えて、またあなたを見た。
ねぇ、私だけを見てほしい。なんて、行動もしていない私が言えたものじゃないけれど、欲望はふくれあがってしまうの。
いつか私だけを望む人になってくれますか?
幼い頃に立ち上がれるようになってから、今までルールにずっと縛られてきた。親の決めたルールをはじめ、保育園、学校、社会人としてのルール。国が決めたルールだってある。
人は誰しもがルールに縛られて、規律の中で生きていく。
「それって、とってもつまらないんじゃなぁい?」
腕から血を流す僕はルールに縛られすぎて心を病んだ。
隣にいる君はしたり顔でいつもルールを破って僕を嘲笑う。
「好きなことできずにルールに縛られてるのって、それってロボットと何が違うのさ」
僕の腕を治療しながら、いつだって自由を説いてくる。
そんな君は自由を求めすぎて、僕の前からもいなくなってしまった。
君は今、どこで自由を満喫していますか?
きっと天使の羽が生えて、この空さえも自由に飛び回っているのかもしれないね。そのうち会いに行くから自由なままでいて。
生きたくない。絶望しかない。でも進まなければならない。
分かりきっているのに、私は願わずにはいられない。
キミが進んでいくこの道の先に、幸あれ。光あれと。
酷く険しくなるかもしれない。つまづき、泣きわめくことになるかもしれない。
それ以上に、楽しい道になって欲しい。
色々な景色を見て、色んな人に出会って、笑顔になれる道であってほしい。
私はいずれいなくなってしまう道だけど、いつまでも願うよ。
大切なキミへ
お題【この道の先に】
視界が揺れる。
ゆらゆらと、コンクリートも建物も、海も砂浜も、夏の暑さで揺らいでいる。
ジリジリと肌は焼けていくし、耳は痛い。
なんで私はこのクソ暑い中、海に連れ出されたのだろうか。
最初は楽しんでいた。だけど夕方になって耳が猛烈に痛くなって、熱も出て―――
「中耳炎ですね」
は?
はぁぁぁぁ?
酷くないですか?
私、1人だけ病気のせいで、肝試しに行けなかった。
そして今日は、熱は下がったものの、1人置いていけないからと、海に連れ出されて、ビーチパラソルの下でワイワイ騒ぐ仲間たちを見ることに……。
悔しいぃぃぃぃ!
海風で耳の鼓膜が痛む。
手でふさぎ、風もそして仲間たちの楽しそうな声すら遮断する。
後ろに倒れ込み、視界に映るパラソルと空。
こんなのが夏の思い出に残るなんて屈辱的だ。
君と最後に会った日
細く、もろくなった君に化粧をする。
初めて君にした口紅は、少し寄れてしまったけど、娘が綺麗に直してくれた。
白い衣装に赤い口紅が映えて、また君に惚れ直した。
別室に移動し、式の準備を進める。
会場に入れば君は微笑んでいて、僕はそっと君に近づいた。
式が終わりに近づき、晴れ姿の君を見れるのは、これが最後だからと顔をのぞき込む。
「ママ、綺麗だね」
「そうだな綺麗だ」
退場する君を、娘と手を繋ぎ見送る。
あの扉が閉まれば、もう君の顔を見ることはできない。
君のことを抱きしめることも、手を繋いで歩くことも、これから先の娘の人生を一緒に喜ぶことも……全てできなくなってしまったんだと、再び開いた扉の先にいた君を見て、そっと泣いた。