傘って嫌いだ。
手が片方塞がるし、完全に濡れないわけじゃない。
畳んだあとも、濡れたソレの扱いに困る。だから、重要度低くて、電車の中にビニール傘を忘れてしまうんだと思う。
「マジかぁ」
シトシトと降る雨に、このまま走って家まで行くか、コンビニで買って帰るか悩む。
「なにやってんの?」
後ろから声をかけてきたのは、小学生からの知り合いで、特に仲良しでもない部類の人間。お調子者で、私はぶっちゃけ苦手な奴。
「……電車に傘を忘れまして、悩んでいるところです」
「へー」
傘を畳みながら、特段興味もなさそうな返答に、イラッとして、さっさと行け!消えろ!なんて心の中で悪態をつきつつ、また空を見上げる。
「ん、貸してやるよ」
「は?」
目の前にぶら下げられた男物の傘は、長さから言っても申し分ない大きさに広がるだろうな。なんで貸してくれようとしてるんだ。と考えつつ彼の様子を見た。
「家近いから貸してやるよ。俺は走ればそんな濡れないから。ほら」
そう言いながら、傘を開き押し付けてくる。慌てて、受け取ってしまったので、「ありがとうございます」と渋々例を言っておく。
そのまま互いに家に向かって別れて歩いて行くと、嘘ろからバシャバシャと走る音。
「やっぱり家まで送るわ」
「え?」
彼は傘をひったくり隣に並んだ。貸してもらった手前何も言えず、この先コンビニなどはないし、黙って横で歩き出すしか無かった。
お互い黙ったままの静かな状態が続く。
いつものトーク力はどうした?なんで喋らないの?とか考えながら彼を横目で見る。
彼は傘をこっちにかたむけつつ持ってくれていて、肩が濡れてしまっている。
「……ふーん、紳士じゃん」
ボソッと呟いた声は彼には届かず、時折触れる腕が、熱を持った気がした。
失敗した。全て自分のせいだと分かっている。
だけど、もっと上手く立ち回れば良かったのに……とか、あそこで手を抜いていればバレなかったかな……とか、考えてしまう。そんな私は、ちゃんと真面目にやれば良かったと、思わないところがダメなのだとも分かっている。
あぁ、やっぱり私は産まれてくるべきじゃなかった。
この雨とともに落下していく気分は、私の心をどんどんと暗い方へと流していく。
どうせ流すなら、過去の行いを全部流してくれればいいのに。
繋がり皆無↓
やっぱり無理!
そう思った時には何もかもが遅すぎる。みんなよくする経験でしょ?
私もたった今そう思っているところなの。
なんで好奇心に駆られて、いそいそと試してしまったのか。
後悔先に立たず。意味あってる?
そんなこと思いながら私は落ちていく。
落下のスピードが早すぎて、周りの景色がまともに見えない。
ちゃんと見えるのは、目の前の景色と、私の未来予想図。
グロッキーになってベンチに横になる私。
ジェットコースターになんか二度と乗るものか、毎回そう思っているばすなのよ。