■星溢の日のディナー(1人前)
星溢の日の庭の星をどう処理しよう……とお困りの貴方に朗報です! このディナーを1人前作れば、貴方の庭の半分は確実に片付くでしょう。
《注意》
恒星を使わない(蜜蝋が溶けてしまいます)
必ず夕食にし、食べきれない分は地方自治体の指示に従い適当に処理をする(星星を星星のまま放置すればどうなるか、義務教育で御存知でしょう?)
《材料》
・星溢の星星(目安30欠片)
・流れ星の軌跡(お好み)
・月牛のリブロース(100g)
・小麦粉(200g)
・ミルキーウェイ(200cc)
《作り方》
ー下準備ー(星星の怒りを買わないように……)
・星星の半分をすり鉢に入れ、すり潰します。
※星星の怒りを買ったときは、即座に湯煎をし、星星の自由意志を奪いましょう。
・月牛のリブロースを先程できた星星でよく揉み込みます(星は気分屋です。塩になるか、砂糖になるか定かではありません)。
・流星のスーサイドスープ
1.星星5欠片とミルキーウェイ80ccを混ぜて夜空の下に流れ星が落ちるまで放置します。
2.リブロースが出来たなら、星の投身自殺は済んだ頃です。そっと扉を開けて、彼女の生きた証を捉えましょう。ポタージュの出来上がりです。
・星空ブレッド
1.星星5欠片を小麦粉に混ぜ、ミルキーウェイ120ccと混ぜて揉み込みます。
2.星星の鋭さが手に刺さらなくなってきたら、形を整えオーブンに。
3.星星がパン酵母、砂糖の役割を果たします。(トリックスターの場合そのくくりではありません)
4.焼き上がりは星星が教えてくれます。オープンから流れ星が夜空に帰ったら、ブレッドの出来上がりです。
・月牛のステーキ
1.持ち込んだリブロースをフライパンで焼きます。
2.星星の5欠片を塩として使います。
3.好きなだけ焼いてください。星星の好みは星星が叫びますが、あくまであなたの好みで。ステーキの完成です。
星溢の日…そらから星の欠片が降る日です。あたると痛いので外出は控えましょう。
流れ星の軌跡…あなたのディナーの話し相手。いらないならご勝手に。
【星が溢れる】2024/03/15
長いねえ。よんでくれたならありがとう。
『鏡の少年』なんて陳腐な渾名が世に知れ渡った頃だ。
当人である青年は学生服に身を包み、鏡を見る自分をその目に映している。鏡を見ると不思議な気分になる。何もない僕を映して、僕がその真似をすると、自然と棒立ちで5分ほど佇んでしまう。
「準備できた?」
僕の希少性で稼いだお金で買った家は広い。デパコスブランドの名前は『映す』のに必要だから全部覚えた。
「できた! 行こっか」
『鏡の少年』…目の色素が極端に薄く涙の分泌量が多いため、目に映した景色が『鏡』のように瞳孔に反射することと、相手の行動や思考、話し方などをそっくり真似することをテレビで紹介され、そのときのキャッチコピーが『鏡の少年』であった。今は一般学生である。
「カガミ! カラオケいかね?」
「え、いくいく! 俺あれ歌うわ。ーーの」
「カガミくん、ちょ、ちょっと良いかな。ぶ部活の」
「あああっ、あれね、僕その、まだ出来てなくて自分でやっておくよ、ごめんね」
カガミカガミカガミ。鏡鏡、鏡。
「カガミ、また保健室か?」
「最近寝不足で」
「カガミ、ボウリング――」
「ごめん今日は予定が」
保健室のベッドで横たわる。
何してるんだろ。
寝不足? 予定? 鏡にキャラクターがつくのは望ましくない。キャラクターがつかないのがキャラクターなのだ。僕の母親はそう言って、僕に他人の真似を強いてきた。
どうも疲れる。
寝返りを打ったカーテンが少し開いていて中が見えた。女の子と目が合う。
「……かぜ?」
「え?」
「……きょうしついやだよね」
いっしょ、と拙く発音して微笑む。
真似をしないと。何を考えてるんだろう。共感できないと真似できない。
「めをとじてはなすといいよ」
僕のことを知ってる? どういうつもりで?
「かんがえないで」
彼女がそうしたので目を閉じた。
あ、ああ。
「おやすみ、ハヤシ君」
そういえば俺の名前はハヤシだった。
それを最後に意識が落ちた。人生で一番安らかな眠りだった。
【安らかな瞳】2024/03/14
その人と会った日のことは今でも忘れない。
大雨の4月だった。美術大学に行きたくて、受験に受かる絵を描きたくて初めて予備校に来た。
「じゃあ、描いてみて。終わったら講評するから声を――」
バダァンッと信じられない音がして、先生の顔がひきつる。削ったばかりの鉛筆を取りこぼしそうになって右手で掴んだ。
「せんっせーい!」
「ドアは静かに開けぇや、エリコ!」
エリコと呼ばれたのは、信じられないくらい美貌の女生徒だった。セーラー服がよく似合う長い黒髪がほつれている。先生が元ヤンだと知ったのと、エリコさんと出会ったのはどちらも私が1年の頃だ。
「わたし浪人してるんだよねぇ。今年で2年目」
私が2年のときにエリコさんが言った。私は高校2年、エリコさんは浪人2年。奇妙な偶然だった。その時でさえ、いや1年のときでさえ、今年は受かる、と私や予備校の教師でさえ思うくらいエリコさんの絵は秀逸だった。
3年のとき、エリコさんはまだ予備校に来ていた。添削のために描いていた再現作品を見せてもらったが、とても落ちるとは思えない絵だった。これが落ちて、私が受かるわけがない。そう出鼻をくじかれて始まった受験期は、悲鳴と落胆、快々諸々そうして終わった。
結果発表の日は、エリコさんと来た。
「緊張しますね」
エリコさんは一言も喋らなかった。
結果が張り出される。自分の番号を探す。尋常でないほど間の空いた番号を慎重に目でなぞる。
――え、嘘。あった。
現役合格? 私が? エリコさんは?
思わず横を見やる。エリコさんの番号は私より後で2枚目だ。でもエリコさんは1枚目の紙を見つめている――私の、番号を。
再現作品を描きに予備校に行った。いつも来ていたエリコさんを見かけることは二度と無かった。
私が殺した。あの天才を。ずっと隣で見ていたから分かる。あの人は天才だ。私なんかよりよっぽどゴッホやピカソそれらの巨匠に近い存在だ。
エリコさんを取らなかった大学は正気なのだろうか。芸術がここにあるのだろうか。エリコさんは存在が芸術みたいな人だった。あの人を取らないなんてどうにかしてる。
だって番号を見つけるまで私は、
エリコさんとなら落ちてもいいって本気で思ってたんだから。
【ずっと隣で】2024/03/13
長いねごめんね。最後まで読んでくれたならありがとう
君のことをもっと知って君に関するテストを作りたい。
問1.あなたのフルネームは? から始まるテスト。
問1の答えすら俺はまだ知らないけど、きっとこれからたくさんの事を知れるだろう。
だって俺はもう問132の答え、先週コンビニで買ったものの答えを知ってる。
いつか君の髪の毛の数を問うて、君の泣き声のリスニングテストをして、そうしたら俺の方が君より答えられる。だって問題を作るのは俺だから。
でも、それだけ君のことを理解してるってことなんだよ。
あんな肺が真っ黒だった男より、俺の方がいいでしょ? カナちゃん。
【もっと知りたい】2024/03/12
平穏サブレ(29人前)の作り方
《注意》
出る杭は打つこと(打っている間は打たれません)
打った杭は触らないこと(指先の傷が致命傷に!)
■材料
・8×8(64平方メートル)の世界
・29人の没個性的生徒
・1人の個性豊かな生徒
・ルッキズム
・モンスターペアレント
・盲目盲信の指導者
(お好みで家柄、成績、問題児……)
■作り方
1.モンスターペアレント、ルッキズムを柔らかくしておきます。
2.29人の没個性的生徒を常温に戻しましょう。
3.材料を1人の個性豊かな生徒以外すべて入れてよく混ぜます。
4.少し寝かせます。
5.大体のグループがまとまってきたら、1人の個性豊かな生徒を入れます。
6.最初は他グループとまとまってしまいますが、念入りに混ぜましょう。数分で孤立します。
7.生地を伸ばします。このときに、お好みの味付けをしましょう。行っても行わなくてもこの教室は救われることはありません。「変わらなければ平穏。変わらない不幸も平穏」
8.型抜きをします。このとき、グループが分かれないよう注意します。
1人の犠牲と29人の平和の下、平穏の出来上がり!
【平穏な日々】2024/03/11
出来が悪い