私は人から愛をもらったことがない。
だから、私は愛を誰かにあげることなんかしない。
あいらぶゆぅまいせるふ。
世界のみんながそうしたら、愛されない人なんて居ない。
だから恋って不思議。
怖くないのかしら、自分が愛されないのが。
怖くないのかしら、他人を愛すのが。
私は信じられない。私の愛を信じて、誰かが愛をくれるなんて。
だから私、恋はしないの。
他人からの「あいらぶゆぅ」なんて、ぜんぜん、信じられない。
ずぅっとずっと、あいらぶみー。
【I LOVE…】2024/01/29
ピンヒールで背伸びをして、ブランドのシベールバックで見栄を張る。
髪を巻いて爪を塗って、アイラインを強くひく。
それがぜぇんぶ上手く行った日だけ、私は街へ行く。
そうしゃないと全然『幻』になれないから。
「お姉さん夜の仕事とか興味ない?」
「ちょっと待って、君すごい可愛いじゃん。俺と一杯どう?」
軽薄なスカウトもナンパも全然気にならない。だってこれが、これこそが私がこの街の幻になれている証なのだから。
彼らは、等身大の私なんてきっと視界にも入れやしない。夢見心地で『街の女』の私を今この瞬間、サイコーに気に入ってる。
私にあるのは、街に所有されている夢って付加価値だけ。
でも、私はそれだけで満足。それだけが愛しくてたまらない。
この街は私みたいな往来のプライドだけで成り立っている。
みんなのプライドが街の正義とか解みたいなのを作って、みんながそれを目指して、ほんとの答えを知らないまま、街はどんどん高く、大きく、幻になっていく。
みんなの幻想で、つくられていく夢の街。
そこの幻になるのがたまらなく好きなだけだ。
【街へ】2024/01/28
この世界は存在するに値しない。
根城であるマンションの最上階で爆弾魔は『世界』を見下ろしていた。
つまらなさそうに見つめるその先には、学校、会社などの誰かにとっての世界が広がっている。
この爆弾魔も元は仲良しグループ世界の住人だったが、排斥された今、彼女は世界の外で世界を見つめる観測者に等しい。
ああ、引け目で見てみれば、案外ずっとつまらない世界である。
必要性を嘆いた彼女はこの世界に爆弾を落とすことにした。
背後の鉄柵を突き飛ばそうとしたその時だった。
往来にしゃがみ込むセーラー服の少女が見えた。枯れた花にペットボトルの水をやっている。
優しさだ。私の欲しがったものだ。
弾かれたように鉄柵を飛び越えて、セーラー服の爆弾魔は走り出す。
この世界に落ちるはずだった爆弾は、彼女自身であった。彼女が死ねば、彼女にとって世界は滅びたに等しいのだから。
量子力学に「この世は観測されるまで存在しない」という言葉がある。言わば彼女の世界にはこれまで、他人の心は存在しなかった。誰も人の心を知らないのだから当然だ。しかし、今日彼女は想像した。枯れた花に水をやる人の心を。
そう、少女はまた教室という64平方メートル世界の住人に逆戻りしてしまったのだ。
羊皮紙が机に叩きつけられる。
「いやはや、この世界は削除だな」
そう神は呟いた。
そこに何があろうと、世界の外から見れば存外他人事である。
【優しさ】2024/01/27
真夜中の街に繰り出すのが好きだった。何をするともなく、ただ無目的に歩き回って、真夜中の街の住人と肩を並べてみるのが好きだった。
そんな私の厄介な敵が補導――私はそれを恐れることができるヤングなのだ。
中学生だね、高校生だねと好き勝手に尋ねてくる彼らは仕事熱心で、氏名と学校名を絶対条件に、答えるまでは今夜は帰したくないと言わんばかりに立ち塞がる。
厄介なのだ。大変なのだ。
でも私は今日も真夜中の街にヤングの象徴、セーラー服で出かける。
私の居場所はここじゃない。
でも私の居場所、たとえば彼らの言う学校では、私は特別になれない。
真夜中の街の奇異な視線――関心、何をしているのかと一瞬でも私に架空の理由が書き足される。
きっと私は特別になりたいだけなのだ。
【ミッドナイト】2024/01/26