NoName

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ピンヒールで背伸びをして、ブランドのシベールバックで見栄を張る。
髪を巻いて爪を塗って、アイラインを強くひく。
それがぜぇんぶ上手く行った日だけ、私は街へ行く。
そうしゃないと全然『幻』になれないから。

「お姉さん夜の仕事とか興味ない?」
「ちょっと待って、君すごい可愛いじゃん。俺と一杯どう?」
軽薄なスカウトもナンパも全然気にならない。だってこれが、これこそが私がこの街の幻になれている証なのだから。
彼らは、等身大の私なんてきっと視界にも入れやしない。夢見心地で『街の女』の私を今この瞬間、サイコーに気に入ってる。
私にあるのは、街に所有されている夢って付加価値だけ。
でも、私はそれだけで満足。それだけが愛しくてたまらない。

この街は私みたいな往来のプライドだけで成り立っている。
みんなのプライドが街の正義とか解みたいなのを作って、みんながそれを目指して、ほんとの答えを知らないまま、街はどんどん高く、大きく、幻になっていく。
みんなの幻想で、つくられていく夢の街。
そこの幻になるのがたまらなく好きなだけだ。
【街へ】2024/01/28

1/28/2024, 12:42:38 PM