3/16/2024, 10:23:04 AM
──すべてを打ち捨ててきた。情も愛も要らないと歩んで来た道に置いてきた。振り返れば点々と落ちたそれらが所在無さげに淡い光を放っている。きれいだとも、うつくしいとも思えるひかりだ。ひたすらにやさしくあたたかい。拾い上げに踵を返そうとして、自分が両手いっぱいに何かを抱えていることに気がつく。まっくろでどろどろとしたそれは、紛れもない恐怖。汚れた手を見て、怖がりな自分は欲してきたものをすべて捨てて、要らないものだけを抱えて歩んでいたことを理解した。ああ、寂しい、寒い。ここはいたく冷える。歩んでいこう、まっくろな道の先へ。
3/15/2024, 1:31:40 PM
──ひどく穏やかな夜だった。月のない真っ暗な夜。探せど探せど道は無く、ただ、暗闇だけが満ちている。見上げた空には数多の星が溢れているというのに、その輝きは地上まで堕ちてこない。高潔で、高慢で、何よりも壊れやすい彼方の星に。もし自分の手が届くのならばどうしようか。つかんで握りしめたまま大事に隠してしまおうか。
3/14/2024, 10:32:53 AM
──感情の乗らない漆黒の瞳。静かで、つやめいて、高潔な黒。なんの色にも染まらない瞳。そのまなこが今は静かに閉じられている。その瞼のおくにはあの黒を含んでいるのか。今、いまいちど。長い睫毛をふるわせてくれ。奥につかの間ねむる安らかな瞳を見せてくれ。その瞳と視線が交わったならば、一瞬すらも悠久のときと思えることだろう。