惟新の角部屋

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11/19/2023, 3:27:37 PM

暗くなってきたのでキャンドルに火を灯す。
手元だけがぼんやりと明るくなって、仄かな明るさが目に優しい。
最近の情報社会では得られない優しさが、ここにある。

手紙を書こうと、引き出しから手探りで便箋を取り出す。少し不便だが、しょうがない。

書き始めると、炎が少し揺れた。
窓からの隙間風だった。それを見て心は動き、筆は踊る。炎特有のこの揺れは、癒やしなのかもしれないが、私には震えているようにも見える。
自らを犠牲にしても、人に癒やしを与えるキャンドル、凄いではないか。
心が震えた。再び筆は動き出す。

11/18/2023, 1:42:32 PM

今日、先生に会ってきた。
もう二十年前になるだろうか、私が中学生の頃、よく困らせていた先生だ。定年を迎えたらしい。

その頃は、私の性格は凝り固まっていて、よく重いだの堅苦しいだの言われてきた。そんな会話、中学生で出来るのかなどと今は疑問に思っている。

先生はあれから、二十学年分の生徒を見てきたらしいが、その全てを明確に記憶しているとのことだった。教師という忙しい職業柄、なぜ思い出せるのか疑問だ。
私なんて、働いた十数年の間、取引先の顔なんてろくに覚えてきていない。先輩にも怒られたものだ。

まぁ、忙しく働いてきたたくさんの思い出に埋もれまた一つまた一つと忘れていっただけなんだろう。

思い出を分けて、大切にする。簡単なようで難しいことだ。それを先生はしっかりしているから、あんなに楽しそうなのだ。夜の酒場でも目立つほどに。

ただ、今日褒められたこと、それは些細なことに疑問を持つことだった。これだけでも、これからの思い出とは切り離して、覚えておきたいと思う今日この頃。 

こう考える自分、重くないかな。

11/17/2023, 10:35:03 PM

もうすぐクリスマスだな、とカレンダーを見て思った。例年通りのクリスマス。

まず、クリスマスケーキの予約の確認をして、
店内の飾り付けもやる。
あと、店長に「おせちの予約の宣伝貼っとけ」って言われたな…

いつも、店内で無条件に流れるジングルベルにいらだちを覚えつつも、人手の足りないクリスマスの経済に貢献していると勝手ながらに自負してきた。
そうでもしないと外のイルミネーションが眩しいからと目を背けてきたカップルたちの冷たい目線が、痛い。

この時期が楽しみだったのは小学校卒業までで、そこからはひな祭りとか十五夜とか、他のイベントと同じくらいに格下げ、いや、それ以下になったな、なんて売れ残ったクリスマスケーキを食べながらよく考えて、参考書を開いていた。

でも、今年は違う。今年は店長に、休みを貰おう。
俺の雪解けは、一足早くやってくるのだ。

11/16/2023, 2:58:12 PM

息子がこの前、
「空と海は離れ離れになっちゃって大変だね」と神戸の港でつぶやいた。

私は正直、この言葉の意味が分からなかった。

どこまで行っても交わらない空と海。
ただ、その2つは境目もないし大きさもない、なんて思ってしまう。
ただ、そんな2つを光やら鳥やらが媒介して、1つにしてくれている様子は、美しい。

離れ離れになった空と海を思いやる、そんな息子に成長を感じる。そう思いつつも、疲れて寝てしまった息子に、黄昏時、白い光が離れ離れの2つを纏り縫いしてくれる、そんな光景を見せてあげたいとも思った。

それを見て感動し、あの光になりたい、なんて思ってくれるのはもう少し後なのかな…
その頃にはもう、一緒には出かけてくれなくなっちゃうのかな…
せつない。

11/15/2023, 3:12:15 PM

なぜだろう、かれこれ1週間、子猫があとをつけてくる。ぶち柄の子猫だ。他の野良猫とは違って、眼光はまろやかで、優しささえ感じる。

最初は特段気にもとめていなかったが、否が応でも目に入るものだから興味が湧いてくる。
少し近づいてみるとあいつは少し離れ、走って行くと走って追いかける。黒くない影がまた1つ出来たようだった。

いつの間にか現れて、学校の校門で別れる、そんなあいつをいつしか「ぶち」なんて呼ぶようになった。
ぶち猫だからぶち。我ながらネーミングセンスのかけらもないと思うし、ぶちも面倒くさそうに顔を上げるばかり。ふてぶてしく風と戯れていた。

そんなあるとき、ぶちと出会って初めて、雨降りの日がやって来た。心配しながら学校へ向かう。その日は風も強く、普段の静寂が嘘のように通学路は慌てふためく草花で賑やかだった。

いつもより多く後ろを振り返る。おかしい。普段なら後ろについてきているはずの場所をいくつ過ぎてもぶちが現れない。大変そうに下っていたあの坂を過ぎても、おばあちゃんに声をかけられたたばこ屋の前を過ぎても、川を見ようと時々立ち止まっていたあの橋を過ぎても現れない。

ついに足が止まってしまった。待つより他はないと意識してしまった。すると、橋のそばのコンビニに、ぶちを見つけた。毛は濡れて固まり、ひどく震えている。風は強く吹いていた。

私は、呼びかける。
「ぶち!おいで!僕の傘に入っておいで!」
すると、ぶちはニィニィと弱々しく鳴きながら私の傘に入ってきた。足に必死に体を擦り付けていく。
制服が濡れるじゃないか、と思いつつも可愛いと思ってしまった。

じゃあ、ぶち、学校行こうか!

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