御蔭

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2/16/2025, 10:00:33 AM

 目眩がする中で壁伝いに階段を降りる。暗闇も相まって、目の前の段差も上手く見えない。

「ヘロン、止まって」

 聞き馴染みのある声が反響する。足もガクガク震えているし、これ以上は危ないからと手すりを掴む。何かが翻る音がして、支えられながら階段に座る。
 顔を上げてみると、律の銀髪が揺れていた。敵を取り押さえた直後とは思わないほど、明るい笑顔を浮かべていた。その顔を見ると気が緩む。でも、まだ、感覚が鋭敏なままで気分が悪い。

「大丈夫。目閉じて、ゆっくり呼吸を整えてね。オーバーロードしてるから、鎮静剤打つよ」

 どうやら能力を使いすぎたらしい。道理で気持ち悪いわけだ。目を閉じると同時に、首筋が冷たくなる。

「力抜いて、すぐ終わるから」

 はっ、と軽く息を吐いた直後に針が首筋を突き破る。思わず声が出てしまった。彼女の指が首を這ってくすぐったい。

「わっ……」

 銃声と硝煙がまだこびり付いている。たまらずに彼女を抱きしめてしまった。謝らないといけないのに、声が出ない。

「気にしないで」

 彼女の心音と体温、気配に身を委ねる。


『ただの相棒、本当に?』
お題
君の声がする

2/11/2025, 9:58:22 AM

「来年もこうして、アーサーと話せるかな」
「話せるよ。僕から会いに行くつもりだ」
あの日から二年。
暁人はいないが、彼を通じて、凪紗とアーサーは二人で会っていた。
「ありがとう」
まだ傷は癒えていなくて、悪夢を見る夜もある。それでも、アーサーの存在は少しずつ彼女の中で大きくなっていた。

『いつかの願いは』
お題
星に願って

2/7/2025, 1:47:38 AM

遠い宇宙の何処かの話。
彼女は星を見るのが好きだった。
病弱故に満足に外へ出ることもできず、家族が買った望遠鏡を大事にしていた。
ある日、星は人の形を成し始めた。そのうちの一人が、彼女の屋根裏部屋に興味を示すように近付く。
彼らの言葉は分からなかったが、二人は楽しく過ごした。

彼は星の王であった。
秘密基地というものを試しに作ってみれば、これが楽しかった。
狭くて小さい空間に、自分の好きを詰め込むのが良い、と。
彼は悩んだ。こんなに楽しいことを教えてくれた彼女に、何で返すべきか。もう時間がない、彼女がそうこぼしたのを思い出した。
そういうわけで────

星が降る。
彼女はその目で流星群を見た。
望遠鏡の傍らに眠る彼女が起きることはない。誰かが言った。
「これは弔いの光。夜が明ける前に、彼女を送り出そう」
こうして主を失った秘密基地だが、家族は変わらず手入れを怠らない。
「いつもありがとう。また会いに来るね」

『蒼き星を仰ぐ』
お題
静かな夜明けの

2/5/2025, 9:57:07 AM

 棺桶の扉が開かれ、遺族と参列者が周りを囲む。雪見は花が詰められた籠を持って彼らの元へ歩く。

「別れ花を添えた後は釘打ちの後、火葬が行われます。故人様にお別れを伝えることが出来る最後のお時間です」

 喪主である老婦人はすすり泣き、ハンカチで拭う。彼女は雪見の方を向き、合図を送る。

「喪主の巴様から、ご遺族様、参列者の皆さまの順で配ります。手向ける際には故人様のお顔が隠れないよう、ご協力をお願いいたします」

 白菊、白百合と白い花が目立つ。孫たちが折った折り鶴や舟など紙細工も手元に添えられる。籠いっぱいの花は二周したところで全て納められ、最後は、色とりどりのガーベラの花束を以て棺は固く閉ざされた。

「……また会いましょう、忠信さん」

『結び目は喉仏となり』
お題
永遠の花束

1/24/2025, 2:48:41 AM

次に目を開けたときこの夢は覚めてしまうだろう。
唇の柔らかな感触はずっと残り続けている。

「ずっと待っているから」


『芽吹いた希望』
お題
瞳を閉じて

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