御蔭

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 目眩がする中で壁伝いに階段を降りる。暗闇も相まって、目の前の段差も上手く見えない。

「ヘロン、止まって」

 聞き馴染みのある声が反響する。足もガクガク震えているし、これ以上は危ないからと手すりを掴む。何かが翻る音がして、支えられながら階段に座る。
 顔を上げてみると、律の銀髪が揺れていた。敵を取り押さえた直後とは思わないほど、明るい笑顔を浮かべていた。その顔を見ると気が緩む。でも、まだ、感覚が鋭敏なままで気分が悪い。

「大丈夫。目閉じて、ゆっくり呼吸を整えてね。オーバーロードしてるから、鎮静剤打つよ」

 どうやら能力を使いすぎたらしい。道理で気持ち悪いわけだ。目を閉じると同時に、首筋が冷たくなる。

「力抜いて、すぐ終わるから」

 はっ、と軽く息を吐いた直後に針が首筋を突き破る。思わず声が出てしまった。彼女の指が首を這ってくすぐったい。

「わっ……」

 銃声と硝煙がまだこびり付いている。たまらずに彼女を抱きしめてしまった。謝らないといけないのに、声が出ない。

「気にしないで」

 彼女の心音と体温、気配に身を委ねる。


『ただの相棒、本当に?』
お題
君の声がする

2/16/2025, 10:00:33 AM