パチパチと薪の爆ぜる音がする。
降り注ぐ雨の音は夜と共に去り、雪に変わっていた。
窓の外を眺めていたら、後ろから抱きしめられた。差し出されホットワインを飲むと、甘くてスパイシーな味がした。口数こそ少ないが、一緒にいて心地が良い。
窓に映る彼はいつもより柔らかな笑みを浮かべていた。
「この熱を君にも」
冬は一緒に
苦しく重くなる意識の中で、貴方の手の感触がずっと残っている。
お題
風邪
吐いた息は白く、吹き抜ける風は冷たい。そんな寒空の下、二人は歩いていた。
「……君と出会ったのも、こんな寒い日だったか」
頭から血を流していた少女は、生きているのが不思議な状態だった。家主である男は懸命に手当てをし、今もこうして2人で静かに暮らしている。
降る雪が見上げる星空も、在るべき道も覆い隠してしまう。男は少女の髪に触れ、末端の一束に口付ける。
彼女は気付かない。親切の裏側に潜む、男の仄暗い欲望に。
『氷雪の聖域』
お題
雪を待つ
聖誕祭が近付き、街は華やかな光で彩られている。私も幼い頃はクリスチャンであり、教会にも足を運んでいた。
「ただいま」
差し出された手を繋ぎ、ゆっくりと歩き出す。暗闇に閉ざされ、死地へ赴いた日々は過去のもの。
私達が勝ち取った平和は、今もこうして続いている。
「無事に帰ってきてくれて、ありがとう」
『祝い事は貴方と一緒に』
お題
イルミネーション
Alice, Alice.
Go away, go away.
You're a grown lady now.
But I still love you.
アリス、アリス
どこへでも行ってしまえ
お前はもう大人なのだから
それでもお前を愛しているよ
*
母はアリスの成人を見届け、その生涯を閉じた。
強い人であったけど、今思えば私たち姉妹の前での芝居だったのかもしれない。
子爵の父は愛人を作り、ありもしない罪を着せて身重の母を捨てた。だが幸いなことに、祖父母の元に身を寄せることができた。母もまた、名前を隠してこの悲劇を本に仕立て上げた。その後も貴族社会の光と闇を描き続け、市井の人々を味方に付けていた。
祖父母、そして母の残した莫大な遺産。これを二分し、余ったお金は旅行に使った。国中を渡り歩き、美味しいものを食べた。最後に訪れた海辺の町でひとしきり休んでから帰るつもりだった。しかし、オルニウス辺境伯がアリスに一目惚れしてから事態は急変。
彼女もオルニウス領の空気が良かったらしく、二人は婚約した。
「アハハ!その名前だけは呼ばれたくなかったなぁ。まぁいいや、アリスを幸せにしてくれるなら……それでいいよ」
あの子は強い。見た目こそ可憐な少女だが逞しさもあって、有象無象たちなら振り落とされるだろう。
「また会おうね、アリス。次会うとき、この国が知る形でなくなったとしても……」
『夜明けを目指して』
お題
心と心