Alice, Alice.
Go away, go away.
You're a grown lady now.
But I still love you.
アリス、アリス
どこへでも行ってしまえ
お前はもう大人なのだから
それでもお前を愛しているよ
*
母はアリスの成人を見届け、その生涯を閉じた。
強い人であったけど、今思えば私たち姉妹の前での芝居だったのかもしれない。
子爵の父は愛人を作り、ありもしない罪を着せて身重の母を捨てた。だが幸いなことに、祖父母の元に身を寄せることができた。母もまた、名前を隠してこの悲劇を本に仕立て上げた。その後も貴族社会の光と闇を描き続け、市井の人々を味方に付けていた。
祖父母、そして母の残した莫大な遺産。これを二分し、余ったお金は旅行に使った。国中を渡り歩き、美味しいものを食べた。最後に訪れた海辺の町でひとしきり休んでから帰るつもりだった。しかし、オルニウス辺境伯がアリスに一目惚れしてから事態は急変。
彼女もオルニウス領の空気が良かったらしく、二人は婚約した。
「アハハ!その名前だけは呼ばれたくなかったなぁ。まぁいいや、アリスを幸せにしてくれるなら……それでいいよ」
あの子は強い。見た目こそ可憐な少女だが逞しさもあって、有象無象たちなら振り落とされるだろう。
「また会おうね、アリス。次会うとき、この国が知る形でなくなったとしても……」
『夜明けを目指して』
お題
心と心
手のひらから伝わる熱は、血と共に巡る。彼女を思わせる温かさが、俺を奮い立たせてくれる。
魔法使いは泣いていた。
「力になれなくてごめん」
違うんだ、力不足なのは俺の方だ。守りながらでは危険に晒してしまうから。後悔を滲ませる彼女に、胸が締め付けられる。
「……信じているから」
『いつかまた会えることを』
泣かないで
(#騎士と魔女)
冷え切った君の手に伝わる温度。
微熱
流れに逆らい藻掻く翡翠は、魔女に訴えるように鳴いた。自然の摂理に干渉することを嫌う彼女だったが、見殺しには出来なかった。冷えた身体を温め、折れた羽を何日もかけて治す。荒れ果てた住処に帰すわけにもいかず、契約を持ちかけた。
そういうわけで、翡翠は義務と権利、終の棲家を手に入れた。
『空を泳ぐ蒼炎』
太陽の下で
(#騎士と魔女)
色付く紅葉に微かな秋を感じた。
刎ねた首は真紅の中に埋もれる。
君の声が眠りに誘い落とす。
『落ちの三重奏』
落ちていく