さくり、さくり、と石灰色の砂浜に足跡を残す。細かく砕け散った事象が瓦礫に降り積もり、荒廃した世界を演出していた。
「帰れそうにないっすねぇ……」
苦々しく呟く彼に同意する。長く留まるには不向きな環境、重苦しい空気と潮風が混じり合って気分は最悪だ。
「ま、アンタの為なら頑張りますよ」
フードの中から端正な横顔が覗く。その目は遠く水平線の向こうを見据えている。
「帰ったら一杯付き合ってくれよな」
『尸を渡る』
貝殻
「煌」と「燦」の違いはなんだろうと考える。
前者は燃え盛る炎がもたらす光、人知の及ばぬ繁栄というべきか。
後者もまたきらめき。こちらは鮮やかさで人を魅了する方向が強いらしい。
『星降る夜の走り書き』
きらめき
会社を辞めた後輩。そんな彼女に執着して、負担になっていたことに気付いた。これで最後だと、謝罪するメッセージを送り、気になっても開かないようにしていた。
「気遣って下さりありがとうございます。返事せずに放置してしまい申し訳ないです」
こちらこそ申し訳なかった。返事は書き込まずに、リアクションだけ押しておいた。
俺にできることは、元上司として、一人の男として彼女が再起することを願うばかりだ。
『行き止まり』
些細なことでも
会社を辞めて、もう何ヶ月経つ?
人との関わりを最低限に抑え、息を潜めて生活をしている。人間が怖くて仕方がないから。
だけど、最近はよくお世話になった上司の夢を見る。信頼できる人だった。それでも、最後は一括りにしてしまって。たまに来る通知も無視していたけど。
「何度も送ってすまなかった。どうか心穏やかに過ごしてくれ」
開けないライン
『ただ一言、震える指先で』
何が私を惹き付けるのか。
生きた年数も、経験も、果ては性別すら違う。離れてはまた探し求め、今となっては日常の一部に溶け込んでいる。顔も名も知らぬ彼は人誑しだ。そうでなければ、扱いづらい私と受け入れ、こんな奇妙な関係を何年も築いたりしない。
「───」
彼は慣れたように私を呼ぶ。
今は声だけ。まだ距離はある。
だけど、それすらもなくなった時、私は一体どうなるのだろう?
『その青が届く距離』
香水