冬野さざんか

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6/10/2024, 10:47:33 AM

 オルゴールの中身を眺めていたい。グランドピアノでもいい。
 葉っぱの葉脈だけを栞にしたい。そこにそっとハルジオンを添えて。
 浴衣着て下駄履いて神社の石段を登りたい。登り切ったらラムネを飲みたい。
 夜道を一人で歩きたい。こわごわとでなく、堂々と。
 丸一日ぐっすり眠ってみたい。一度も起きずに、眠ってみたい。
 そして目覚めたその時に、やなことぜんぶ、忘れていたい。

「やりたいこと」

6/9/2024, 2:03:14 PM

 朝は嫌いだ。寝汚い私はいつも、携帯電話のアラームに叩き起こされるのだけど、そういう時はあと五分がお決まり。朝なんて来なきゃいいのに、それならずっと寝てられるのに、そんなおはようが恒例なのだ。今日だってそう。アラームに手を叩きつけるようにしてその音を止める。携帯電話に恨みはないし、それどころか常日頃お世話になっているわけだが、この瞬間だけは親の仇だ。許せ。アラームの音が止まってからも、少しだけぼうっと壁を眺める。そして少ししてから、のっそりと起き上がる。
 嘘、アラーム設定時間からもう五分も経ってる。
 毎朝こんな感じ。近頃は梅雨の気配がして、部屋の空気は少し重い。体を引き摺るようにして窓辺に立つと、一思いにカーテンを開いた。シャッ、と、遮光カーテンもレースのカーテンもいっぺんに。
 途端、目を焼くのは朝の日差し。頬にぶつかる光。
 うっ、と、目を細めて一秒間。そろそろと開くと、全く憎たらしいほどに青空。
 恨みがましい私に口笛でも吹きそうなほど晴れ渡る空は、私の頬に朝日を投げて、私の鼻先はぽかぽかだ。
 私の一日はそうやって、どうにかこうにか始まる。

「朝日の温もり」

6/8/2024, 7:28:16 PM

 そして未だ選べずに、ここにじっと立ち尽くしている。

「岐路」

6/7/2024, 11:54:12 AM

 「明日学校に隕石が落ちたらさ」
 なんて、荒唐無稽な会話を始めた友達の顔を見た。明日は期末テストだ。
 学校なんてめちゃくちゃになってさ、テストなくなればいいのにね、なんて言うのかと思ったら、一旦そこで、手元にあった抹茶ラテのカップをつっつきながら言葉を切って、真剣な顔でこう言った。
 「そんな都合がいい隕石なんて落ちないか。それか、街丸ごとなくなっちゃうか……下手すると地球ごと粉々とか?」
 危うく飲んでたもの吹き出すとこだったから、慌ててストローから口を離して、恨みがましい顔をしてみせた。多分、口がにやけてるのバレてる。あたしとコイツの仲だから。
 「なんでいきなりそんな真面目になるかな」
 「地学の範囲が被ってたから」
 「そうだった。丁度その辺だったね」
 あー、数学と地学ヤバいかも、と、あたしの意識がそっちに向きかけた時、友達はもう一回同じことを、正確には、ほとんど同じようなことを、言った。
 「明日隕石が落ちたらさ。地球なんて木っ端微塵にしちゃうようなやつが」
 あたしはもう一回ストローを咥えようとしていたのをやめて、変にきらきらしたその目を見た。窓の向こうから差し込むほんの微かな太陽の光を反射してきらきらしたその二つの瞳はまるで星みたいだった。
 「そんときはさあ、ウチ、あんたとキャラメルマキアート飲みたいなあ」
 そんなことを言うから、あたし、やっぱり笑っちゃった。のこり少ないカップの中からキャラメルマキアートを啜って、飲み切って、頬杖ついて、笑う。
 「コーヒーもキャラメルも苦手なくせに?」
 からかうように言ってやったのに、そいつときたら頷いた。大真面目な顔で。
 「だってあんたが好きなやつだから」
 なんて言うから、ちょっと照れた。
 次の日、隕石は落ちなかったけど、あたしは抹茶ラテを飲んだ。

「世界の終わりに君と」

6/6/2024, 11:05:53 AM

 お気に入りのアイシャドウを瞼に乗せてぼかしたら、いつもは苦手なグラデーションが綺麗にできた。最高。新品の黒いアイライン、全くよれずに綺麗に描けた。最高。眉毛が左右対称に、超可愛く描けた。最高。リップもいつもよりぷるっぷるで可愛い。最高。シェーディング大成功でめっちゃ盛れた。最高。前髪超絶最強に可愛い。最高。髪はオイルつける前からさらつや。最高。ヘアアレンジ大成功。最高。トーストの焼き加減が最高。目玉焼きは半熟で最高。トーストに乗っけて食べ切って、予定より十分も早く玄関を出られそう。最高。
 だったのに。
 ざあーって、いきなり降ってきたゲリラ豪雨にやられてみーんなおじゃん。天気予報、ぜんぶ晴れマークだったのに。

 「最悪」

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