悪いこと言わない。風邪薬飲んで寝ろ。毛布にくるまって布団かぶって。
微熱で済んでるうちが花。そのうち喉にきて鼻にきて、起き上がれなくなるんだから。
「微熱」
肩にかけたままの毛布を引きずってきて、絡まるように窓辺に座る。朝焼けから少し経った冬の口の朝の寒さが鼻先を冷やす。
ああ、さむいさむい。
毛布を体に巻きつけ直して、四角い日差しを享受する。
太陽の下はまだ、ほんのちょっとはあたたかい、冬の足音響く朝のこと。
七夕前夜に土砂降りで、ああ今年は会えないのかと少し寂しく空を見上げた。
結果来るは七月七日。見事に快晴。
しかしながら、やはり織姫と彦星は、再会ならずであっただろう。
熱中症警戒アラート発令。外出はやめておくに限る。だって令和のこの時代、リモートでいつでも会えるでしょ?
「七夕」
窓を開けると途端に、取り巻く空気が憂鬱な季節に塗り替わる。快晴だ。もう既に外出したくない。セミなんて鳴いちゃってさ。ああもう今日一日中家にいたい。まあそういうわけにもいかないから、じっとりと窓の向こうのコンクリートを睨んでから朝ごはんを食べる。なんでもいいや。適当に焼いた食パンに、バター…いや、今日はジャムでいいか。ジャムに食パンに味噌汁…は、変か。今日はいいや。
むぐむぐ頬張って豆乳で流し込む。窓向こうから差し込む光に急かされるように身だしなみを整えて、最後の仕上げに。
日傘だ。
頼むぞ相棒、にっくき夏の日差しから、私を守ってくれたまえ。
では、行ってきます。ドアを開けた瞬間早々にくじけかけたのは内緒。
「日差し」
水滴が落ちるのを見ていた。
窓の向こう、水滴が落ちるのを見ていた。
窓の向こう、遥か上空から、水滴が落ちるのを見ていた。
窓の向こう、遥か上空から、たくさんの水滴が落ちるのを見ていた。
雨天。
水滴はたちまち無数の雨の礫となって、コンクリートに落下する。
コンクリートに落下した無数の雨の礫は互いに結びつき合って、大きな水溜りになった。
大きな水溜まりに、無数の水滴が落下する。
雨が降る。
「落下」