冬野さざんか

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 窓を開けると途端に、取り巻く空気が憂鬱な季節に塗り替わる。快晴だ。もう既に外出したくない。セミなんて鳴いちゃってさ。ああもう今日一日中家にいたい。まあそういうわけにもいかないから、じっとりと窓の向こうのコンクリートを睨んでから朝ごはんを食べる。なんでもいいや。適当に焼いた食パンに、バター…いや、今日はジャムでいいか。ジャムに食パンに味噌汁…は、変か。今日はいいや。
 むぐむぐ頬張って豆乳で流し込む。窓向こうから差し込む光に急かされるように身だしなみを整えて、最後の仕上げに。
 日傘だ。
 頼むぞ相棒、にっくき夏の日差しから、私を守ってくれたまえ。
 では、行ってきます。ドアを開けた瞬間早々にくじけかけたのは内緒。

「日差し」

7/2/2024, 3:13:37 PM