元日に初日の出ならぬ初日の入りを見るのも中々オツなものである。
沈む夕日を眺めながら今日はこんなことをしたなあ、明日は何をしようかな? と思いを馳せるのも良いものだ。
……ということを数年前兄に力説したら毎年朝起きられない人がなんか言ってると一蹴された。
ちょっと悲しかった。
……君と出会えて本当に良かった。
僕は幸せ者だね。
それに君の目を見つめると……心の底から愛しさが溢れ出てくるんだ。
もしかして君は……君は……
…………。
ねえ、この先も言わなきゃダメ? すっごく恥ずかしいんだけど。
……言えと。はい、わかりました……
えーっと……もしかして君は、愛の女神さま…が遣わした天使、なの…かもね……っ
あーっもうダメ! こんな恥ずかしいセリフ真顔で言えない!
お姉ちゃんも僕じゃなくて王子役の人とリモートで練習しなよ!
それかお母さんに読んでもらって!
僕もうこんな歯の浮くようなセリフ言うの嫌だからね!
男は星に手を伸ばす。届かないと知りながら。
それでも男は満足げに微笑み、大きく頷く。
「うんうん。星を掴むなんてやっぱり無理だな!」
誰に聞かせるわけでもなく大きな声で男は言い、とある一つの星を指差す。
「だが見てろよ! いつか俺は星を掴む男になる!
その時まで誰にも取られるんじゃねえぞ!」
男はニッと楽しそうに口角を上げ、数秒静止する。
そして後ろを振り向き「ちゃんと撮れたか!?」とスマホを持った女に声をかけた。
「撮れてますよー。なんなら確認してみてくださーい」
男が今しがた撮った動画を再生し、その出来映えに破顔する。
「……よし、カッコよく撮れてるな。
セリフもポーズも考えて考えて考え抜いた甲斐があったぜ」
今にも鼻歌でも歌い出しそうなくらいご満悦な顔をしている男に女がため息混じりに声をかける。
「……それよりもセンパイ。こんなちゃっちい手づくりの星空で良かったんですかー?
本物の星空の下でやる方がカッコいいと思うんですけどー?」
「そりゃあ俺だって本物がいいに決まってるさ。
だけどほら、俺もお前のスマホもあんまカメラの性能良くないだろ?
それだと綺麗に撮れねえんだよ星が。
この作品は星がメインなんだからな!」
「へー、そうなんですねー」
腰に両手を当てて胸を張る男に女は生返事をする。
その態度に男は少し不服そうな顔をしたがすぐさまなんでもないような顔をした。
「……まあいい。それよりも次のカットいくぞ!」
「あーい」
二人の自主制作映画はまだ始まったばかりだ。
それがどんな作品になるのかは、男にしかわからない。
散らかってる部屋。
めくってないカレンダー。
好きなことをしてる私。
でも、それでいいの。
気が向いたら片付ければいい。
気が向いたらカレンダーをめくればいい。
一箇所でも綺麗にしていたらそれでいい。
ちゃんと出来る人だって、私が一番よく知ってるから。
やる気ブーストチャージがとてつもなく遅いだけでちゃんと出来る人なんだから。
うんうん。私は出来る子。やる時はやる子!
だから明日頑張ろうね。
ごはんの前のつまみ食いってなんであんなに美味しいのかな。
一つだけ、一つだけって思っていてもつい二個とか三個とか食べちゃう。
そんなに食べるのなら自分で作れ! と親から怒られて渋々作ってみても、つまみ食いの美味しさには敵わない。
なんでだろうなあ。やっぱり料理の腕の差かなあと思っていると妹が神妙な顔して言った。
「お姉ちゃん。最高のスパイスは料理の腕とかじゃないよ」
「じゃあやっぱり愛情?」
「それも違う。
空腹感と罪悪感と背徳感。これが最高のスパイス。
夜食やつまみ食いがあんなにも美味しいのはそれが理由だよ」
「……なるほど」
だから味の感じ方にすごく差があったんだ。
納得したと同時に、でもこれがつまみ食いの免罪符にはならないよなあとも思った。