「ねえ、あなたの一番大切なものって何?」
人生で何回か言われたことのある質問。
職場のおしゃべり好きな先輩からこの質問をされた時は正直またかと思ってしまった。
それを訊いて何になるのか、何のためになるのかはわからないけれど、私の返答は既に決まっている。
「美味しい食べ物です」
「食べ物? そんな食いしん坊だったっけ?」
「違いますよ。美味しい食べ物は生きる楽しみとか明日への活力に直結するんです。
先輩も限定スイーツとか好きでしょう?」
「あー……なるほど? ……そういうのもあるんだね」
どうやら初めての答えだったらしく先輩は少し首を傾げていた。
先輩的には何と答えてほしかったんだろう。
やっぱりお金とか時間とか愛とかそういうものを求めていたのかな。
……というか、本当にこの質問ってその人の何のためになるんだろう……?
昔々、仲の良い男女がいました。
結婚の日取りも決まり、村の者もその日を楽しみにしていました。
しかし、男が流行り病に倒れてそのままポックリと逝ってしまいました。
深く嘆き悲しんだ女は結婚するはずだった日に花嫁衣装を着てあたかも男が生きているかのように振る舞いました。
村の者は女の意を汲んで同じように振る舞い、その様子を見ていた神官は神様に今日この一日だけ皆が嘘をつくことを許してくださいとお祈りしました。
これがエイプリルフールの始まりです。
……なーんてね。もちろん嘘ですよ。
親しい人に向けた祈りや祝福の言葉が次第と呪いの言葉になる。
『元気でいてほしい』『幸せに生きてほしい』
たったそれだけの意味しか持たないのに段々と、いつも元気でいなきゃいけない。絶対に幸せにならなきゃいけないと思い込んでしまう。
そういう系の創作は正直大好きなのだが、リアルではあまり見たくない。
過去に縛られずに前を向いて歩いてほしいから。
明日、私の恋は終わる。
忘れ物を取りに戻っただけだった。教室に入ろうとしたらクラスのアイドルが明日彼に告白するという話を聞いてしまったのだ。
取り巻きは彼女を囃し立てて、しかも絶対成功するものだと確信している。
確かに彼女と彼がくっついたら紛れもなくお似合いのカップルになること間違いない。
きゃあきゃあと盛り上がる黄色い声に耐えられず私は足早にその場を後にした。
家に帰っても誰にも悟られないように何気ないふりをしていたけど、心はまったく穏やかじゃなかった。
私が先に好きだったのに。
私が彼を一番見ていたのに。
悔しいと思うのなら先に告白すればいいと思うけど、運の悪いことに明日は法事で遠方に行かなければならない。
……ああ、なんで忘れ物なんかしちゃったんだろう。
何も知らないままが良かったのに。
こんな形で恋を終わらせたくなんかなかったのに。
『誰だって勇者のハッピーエンドを望む。
魔王や魔物のハッピーエンドなんか見たくもないからだ。
それでも彼らにも幸せになる権利はあるはずだ。
世界がそれを認めるかは別として』
……というポエム? が部屋の隅から出てきた。
私の筆跡で間違いないけれど、書いた覚えはない。
というかいつ書いたかすらも覚えてない。
何を思ってそれを書いたのか、何か悩み事があったのかさっぱりわからない。
でも、ただ一つわかることがある。
この時の私は『勇者のくせになま◯きだ』をまだ知らない!
あれほど魔王や魔物たちを応援し、勇者たちをけちょんけちょんにし、世界に平和は訪れないことを喜べるゲームもない。
叶うならポエム? を書いた時の自分に某破壊神さんのプレイ動画を見せてあげたい。
どんな反応するんだろう? 想像もつかないけどきっとびっくりするんだろうな。